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第15話
15話 寝不足
「はあ……」
昨晩なかなか寝付けず、寝不足気味な身体でリオットはため息をつく。
その理由は一つ。部屋にルシアンがいる。
とても素直で無防備な姿で。それだけだ。
彼は初恋の相手だ。いつか彼のいる第一騎士団に行けるようにと努力し、第三騎士団のトップに上りつめたが、家柄の問題で第一にいくことは叶わなかった。しかしまた再会できるなんて……運命である。ただ当初向こうは覚えていなかったのは少しショックではあったが……。
どうして彼らが第三に派遣されたのかは分からないが、優秀な2人が来てくれてこちらとしては大助かりだ。
そしてルシアンは何かしら理由をつけて、この部屋を出て行くかもしれないなと思っていたが、そんなことはなく、大人しく過ごしている。ちゃんと反省してくれてるのかもしれない……。今は軽口も叩けるくらい回復しているようで、本当に良かった。(本音かもしれないけれど、ポジティブに考える。)
そして想定外なのが思いのほか素直。それが逆にこちらを狂わせる。素直すぎて耐えるのに必死で、頭の中がおかしくなりそうなのだ。
なので今日は1人で食堂にて朝食を取ることにする。新しくできたばかりの食堂は、案外種類があって美味しい。美味しいけど、腹が減ってない。常に腹がいっぱいな気もしている。
食べるけども。とりあえずサラダにフォークを突き刺す。
たくさん好意をぶつけたい反面、無理強いはしたくない。早く身体を治して欲しい。
なのに。本当に心からそう思ってるのに、向こうが誘惑(?)してくるのだ。
下心が完全にないわけではないので、ぐらつくというわけだ。
でもそれはもう、向こうが悪いと思う……。
再びため息をつく。すると後ろに座っていた新人団員数人の会話が盛り上がっている様子が聞こえてくる。
「……それでな、金色の髪で儚い感じの美人だって聞いたぞ」
「でもそれ高嶺の花だろ。それに健診は一部の上級騎士しか受けられないらしいぜ」
「羨ましいなー。そこまで登り詰めるのに何年かかるんだ」
「多分おれらの成績じゃ一生無理だろ」
金髪で儚い美人……。上級騎士の健診をして報告するのはルシアンの仕事だ。
どうやら彼のことを話しているらしい。
儚い……?平然と無意識に毒を吐く人が儚い?
夢を見ているんじゃないか。意外と口が悪いんだ、彼は。
いや、自分も夢を見ている節がないとは言えない。初めて会った時はそう思ったし……。
もう少し聞き耳を立ててみると、どうやら第一騎士団から来た直後に、魔力不足で休暇中という件に尾ひれがついて回っているようだった。
最終的には、金色の髪を湛え、魔力不足で休暇中……きっと今にも倒れそうで、優しく微笑む女神なのだろうという結論に至っている。
なんということに。
「でもそれ、男って聞いたぞ」
「えっ!男!?なんだよ。じゃあただの噂かよ……」
新人団員は事実を知ってため息をつく。
そのまま諦めて欲しいと心から願う。
でももう一押し。食事を終えて椅子から立ち上がる。
「……その噂ってどこの情報っすか?」
後輩相手にも敬語がすっかり染み付いてしまっている。まあ威圧感はなくしたいので問題ないだろう。
「うちのチームのやつが……ってリオット副団長!?」
「聞きたいだけだから、食事は続けていて構わないっすよ」
穏便に話を聞きたいので、笑顔を浮かべて彼らの隣の席に座る。驚かしたつもりは全くないが、完全に食事を取る手が止まってしまっている。
「彼はただの魔導オタクで、人を実験に使うのも厭わない。そんな噂を広めたら、情報源である君たちから、実験リストに加えるかもしれないから気をつけた方がいいっすよ」
毒舌で、魔導オタクで、意地っ張りな人物。
そんな人に興味を持たないで欲しい。
なので噂を広めるなら、こっちだ。
「じ、実験リスト……!?」
「ともかく、妙な噂は流さないように」
「わ、わかりました……っ」
新人団員から息を呑む様子が窺える。
ちゃんと伝わっただろうか。
立ち上がって任務の準備を進めるか。というところで真っ黒に染められた隊服に身を包んだ彼が現れる。
「脅すな……」
先ほどの会話を聞いていたのか、ヴァルドは苦笑するのだった。
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