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第三章「事件の夜」第四話*

 ビクビクと体を震わせ、志季は春介の胸に倒れ込んだ。呼吸はなかなか収まらず、腰は不随意に動いていた。春介が抱きしめると、志季も春介の首に手を回した。引き寄せ合うように、口づけを交わした。  抱き合ったまま、春介は体を起こす。所謂対面座位の恰好で抱き合った。志季は春介の腰に足を絡めた。挿入が一層深くなり、すぐに硬さを取り戻した。  志季を仰向けに寝かせ、細く括れた腰を掴んだ。指先が微かに沈み込む、その感触にも興奮した。    春介が突き上げる度、志季は身を捩じらせて喘いだ。掠れた声が上擦って響き、ただ甘ったるいだけのそれよりも、ずっと官能的だった。まるで媚薬のように、春介の性感を刺激した。腰を止めることができなかった。  春介、春介、と志季が舌を縺れさせて呼ぶ。その震える体を掻き抱いてキスをした。舌を突き立て、口腔内を掻き回す。とめどなく溢れる唾液を絡ませ、喉の奥へと注ぎ込んだ。  射精の瞬間、舌を噛んだ。志季が怒って噛み付いてきた。叱られた犬のように春介が小さくなると、志季は笑って、血の滲んだ舌を春介の唇に這わせた。  ペニスを引き抜くと、白濁液がどろりと溢れた。尋常でない量だった。淡い色の割れ目を濡らして、とめどなく溢れ出た。    志季はうつ伏せになり、尻だけを高く上げた。揺らめくそれを、春介は両手で抱き寄せた。いまだ硬さを保っていたペニスを、ゆっくりと押し込んだ。奥に出した精液が押し出されて溢れた。内腿を伝い落ち、膝まで垂れて染みを作った。  精液が掻き混ぜられて泡立った。いやらしい水音が官能を煽った。志季の白い背中が滑らかに撓う。  腰を引くと、穴の縁が捲れて鮮やかな粘膜が覗く。奥まで突くと、志季は腰を弾ませて、その衝撃を受け止める。潤んだ肉襞が吸い付いて、射精を促すように収縮する。腹の奥は微痙攣を繰り返している。   「ッ、も……また、いっちゃう……」    毛布に頬を擦り付けながら、志季が肩越しに訴えた。切なげに細められた目尻に、綺麗な涙が光っていた。  春介は志季の体を抱き起こす。すりガラスに手をつかせ、背後から押さえ込むようにして、深く体を密着させた。  深い角度で挿入する。逃げるように浮き上がった志季の腰を押さえて、最奥まで突き上げた。  いやいやと志季は身を捩る。艶のある黒髪が躍り、涙が散った。もうちょっとだから、ごめん、と春介は低く唸るように囁いて、腰を振りたくった。    志季の汗のにおいが甘く香った。濡れた黒髪が幾筋もの束になり、白い首筋に張り付いていた。唇を寄せて、吸い付いた。犬みたいに舌を這わせて、そのうちにたまらなくなって、歯を立てた。甘噛みをすると、腹の奥がきつく締まった。  唇を濡らす嬌声は、徐々に余裕なく上擦っていく。肌と肌のぶつかる湿った音が、リズミカルに響いている。  もうだめ、いっちゃう、と口走った志季の唇を、春介は強引に塞いだ。顎を掴んで後ろを向かせて、深く舌をねじ込んだ。すりガラスにつかせた志季の手の上から、自身の手を重ね合わせて、指を絡めて握りしめた。    抱きしめた体が痙攣する。志季はガクガクと腰を跳ねて、何か透明な汁を噴き上げた。春介もまた、ぶるりと腰を震わせて、激しく収縮する腹の奥に、ありったけの熱を注ぎ込んだ。  奥に放った体液が、重力に引かれて流れ落ちてくるまで、そのままの体勢で抱き合った。ペニスの先を腹の奥に擦り付け、精液を塗り付けた。春介が腰を動かすと、志季も応えて腰を揺らした。  舌を絡ませ、唾液を吸った。口の端に漏れる熱い吐息までをも、互いの口内で混ぜ合った。呼吸が重なり、鼓動が同じリズムを刻む。    薄明の頃だった。蝉の声に目が覚めた。隣では、志季が寝息を立てている。布団代わりに掛けた、春介のジャケットに包まっている。  手を繋いで眠ったのだった。結んだみたいに指が絡み、汗でぴったり張り付いていた。志季の手は、昨晩と同じく熱かった。  爪の間に泥が詰まって真っ黒だった。親指と人差し指の爪が割れていた。指は傷だらけで、赤黒く変色していた。  掌にはマメができていた。マメが潰れて皮膚が裂けていた。血は固まって、泥と見分けがつかなかった。  明るいところで見てみれば、お互いに酷い有様だ。志季の顔は、血とも泥ともつかないものがこびり付いていた。おそらく春介も同じだろう。二の腕の方まで黒くなっていた。    昨晩、確かに、人を殺して埋めたのだ。あの山に、あの男を。二人の過去を、抱えた傷ごと、土の下に埋めたのだ。  あの日の秘密は埋めてしまった。そして今、新しい秘密を共有している。  あの男はもういない。志季を傷付けるものは、もうどこにも存在しない。そして、春介を縛り付けるものも、今はもうどこにもない。自分の足で立って、どこまでも歩いていけるのだ。    生まれ変わった気分だった。木漏れ日の天井も、すりガラス越しの脆い光も、何もかもが懐かしい。そして、目映いほどに新鮮だった。この場所は、二人のかつての聖域であり、そして今、二人の新しい聖域になった。  鉄骨のフレームは腐食して錆び付き、外壁のガラスは穴だらけだ。割れたガラスのすぐ下に、一輪の花が咲いていた。白い小さな花だった。廃温室の片隅で、健気に花を咲かせていた。  志季が微かに身じろいだ。眩しそうに眉根を寄せながら、ゆっくりと目を開ける。春介、と掠れた声で呟いた。   「帰ろうか」    春介が言うと、志季は手を握ることで答えた。  取り戻した聖地を後にし、家路につく。すりガラスには、昨晩重ねた、二人の手形が残っていた。  昇りくる朝日が、山の稜線を照らし出す。黎明の光の中で、金色の稜線がくっきりと浮かび上がる。  山の向こうから朝日が昇る。幾筋もの光芒を描き、黄金の矢を降らせた。その瞬間、世界は鮮やかに色づいていく。  眩しい光の洪水が、夜の闇を洗い流す。山陰は紫の光を帯びて、厳かに煌めいていた。    志季の手を強く握った。知らぬうちに手が震えていた。志季の手を握りしめると、震えは止んだ。傷だらけの指が絡んだ。  二人で同じ朝日を見ていた。血泥にまみれた志季の顔は、この世の何より美しかった。  この美しいものを守りたいと思った。この先の一生、どんな犠牲を払っても、こいつのことだけは守りたいと。

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