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柚子side2

「着いた」  橘くんの家に帰り着き、部屋に入ると同時に彼は荷物を床に投げ捨て、思い切り俺を抱きしめた。駅からの数分間走っただけなのにお互いに息を切らしていて、程よい季節に似合わず汗もかいていた。  呼吸が落ち着いてからが良いとか、臭いは大丈夫かなとか、そんなことを考える余裕もなく、俺も迷わず抱きしめ返した。 「柚子さん」 「ふふ、橘くんに抱きしめられたのって、初めてでも何でもないのに、でも、なんだか両想いってすごいね。全然違うんだね」  「ねぇ、なんでそんなに可愛いこと言うの」  自分の気持ちに素直になり、彼を受け入れ、そして自分を受け入れてもらえることは、こんなにも温かく満たされるものなんだな。  これでもかというほどに力を込めると、橘くんが「痛い……。でもこの痛みが嬉しい」と言って、俺以上の力で抱きしめ直してくれた。  ふたりで痛いと言い合いながら、けらけらと笑う。 「柚子さん」 「ん?」 「好きだよ」 「俺も、好き」 「幸せすぎて、やばいね」 「……うん、やばい」  橘くんは今、どんな顔をしているのだろう。  どうしても見たくなって、抱きしめる力を緩めると、彼もそれに応じてくれた。  しばらくの間、静かに、そして穏やかに見つめ合う。 「柚子さん、好き」 「うん、俺も。ふふ、すごいや」 「ね」  橘くんは今まで見たな中で、この瞬間が一番柔らかな表情をしていると思う。そして今日が一番輝いて見えるし、かっこいいし、可愛いとも思う。  俺は、どんなふうに映っているのかな。 「柚子さん、これからもう我慢しないからね」 「え?」 「今まで以上にだよ、しなくなるから覚悟してね」 「え、ん? ……むっ!?」  ゆったりとした時間を楽しんでいたのに、橘くんは何歩分も踏み込み、俺にキスをした。キスというか、食べられていると表現するほうが近いかもしれない。  後頭部に回された手で強く引きつけられ、角度を変えながら繰り返される。  今までは優しく、時には強く押し付けられるだけだったのに、舌先で唇をつつかれ、素直に口を開けば、躊躇なくざらりとした厚みのある感触が侵入してきた。歯列をなぞられ、全身が痺れた。  我慢していたってこれのことか。今までもスキンシップは恋人並みだったのに、恋人になったらそれ以上が待っている……ってこと、だよね。  これからのことを考え頭の中でパニックを起こしていると、「集中して」と耳を引っ張られ、それに驚いて目を開くと、俺をじっと見つめる橘くんが視界に入ってきた。  さっきの柔らかな表情とは違う目力の強さに俺の心臓も跳ね上がる。自分も男だけれど、比にならないくらいのオスっぽさを感じる。  あまりの気持ち良さに、頭が真っ白になりそうだ。 「んっ……ふ、」  とうとう鼻での呼吸が追いつかなくなり、本当に意識が飛んでしまいそうだと焦りながら彼の肩を叩くと、やっと唇が解放された。  お互い肩で呼吸をしていて、何となく走って帰ってきた直後を思い出す。こんなに全力でキスしたことなんてなかったから、未知の感覚と恥ずかしさと、そしてどこか面白さもあって吹き出してしまった。 「柚子さん、甘い雰囲気が台無しじゃん」 「いやだって……、ふふ、ふっ、」 「なんだよ」 「キス、びっくりした。なんかすごかった」 「なのにそんな笑うの?」 「ごめ……ん、ふはっ」  笑いながら、俺の中で何かが溢れ出して、彼に飛びつくように抱きついた。首に腕を回し、頬や鼻、唇にキスを落とす。  橘くんは何が起きたのかときょとんとして固まっていたけれど、状況が分かるとこれだけのことで顔を染め、「反則だよ」と座り込んだ。  

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