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夕side
「柚子さんは子ども好きなの?」
「え?」
「いや、さっきの反応、慣れてる気がしたから」
帰り道でそんなことを聞きながら、俺は柚子さんが持っている買い物袋に手を伸ばした。
人通りの少ない小道に入ったから、柚子さんも文句を言わないだろう。
スーパーで俺がカゴを持ったのがよほど気に入らなかったのか、買い物袋は自分が持つと言ってきかなかった。
「子どもは、あんまり好きじゃないけど」
「そうなんだ?」
「さっきの子は可愛かったから……」
柚子さんはそれだけ言うと、俺の手を袋から離そうと指を引っ張った。別に良いじゃん。俺が半分持つくらいさ。
「柚子さん、ふたりで持とうよ」
「……俺が持つ、」
「ふたりで持ちたいなぁ、」
「もう……、俺が、持つって言ってるのに」
「じゃあさ、手繋ぐ? 俺は袋越しにこうして一緒に持つの好きなんだけどさ。手を繋いでいるみたいだから。でも柚子さんが嫌なら、手を繋ごうよ。柚子さんは袋じゃあなくて、俺の手が良いんでしょ?」
「……っ!」
そういうつもりで言ったんじゃあない! と、柚子さんの顔が一瞬で赤くなった。肌が白いから綺麗に染まる頬が本当に可愛い。
柚子さんの手を袋から離し、俺は反対側の手に袋を持ち替えた。それから空いているほうの手で柚子さんの手を握る。
指を絡ませてて視線を合わせれば、口をぱくぱくと動かし、俯いてしまった。
あーあ残念。可愛い顔が見えなくなった。
「ゆーずさん」
「……、」
「きーちゃん」
「う……、」
何度名前を呼んでも、柚子さんは下を向いたままで、少し早歩きになる。
どんなに早く歩いたところで、この手を繋いでいる限り意味がないのに。それに気づく余裕すらないのだろう。
「隣歩いてよ。顔も上げてほしいな」
「いやだ」
「何で?」
「だって橘くん、すぐ揶揄うから」
「え? それは可愛い柚子さんが悪いでしょ?」
「……ほら、」
「可愛い可愛って言い過ぎ。意味分かんない」と、柚子さんが振り返って睨みつける。隣を歩くことも顔を上げることも拒否していたくせに、結果的に俺に顔を見せているし、先を歩いている時よりも距離が縮まっているじゃん。
そういうところが可愛いんだよと、そう思いながら握っている手に力を込めた。
「柚子さん。さっきのゆうまくんには抱っこしてあげていたし、すごく優しかったのになぁ……。俺のことは睨むんだ?」
「だから……っ、」
「子どもはそんなに好きじゃあないって言ったくせに、その子どもより俺の扱いひどいじゃん」
「また、そうやって、」
耳まで真っ赤にした柚子さんがまた一歩俺に近づいた。わりと本気で怒っているかもと思いながら俺も距離を縮め、それから柚子さんの口を塞いだ。
ぎゃ! と叫び、数歩分後ろに下がった柚子さんが咄嗟に口を押さえた。そんなことをしても今更だと、繋いだままの手を引き抱き寄せる。
もう一度口を塞ぐと、一回目よりも大きい声を出し、今度は手を離そうと振り回し始めた。それに付き合い、俺も同じ方向に手を振る。
「……もう!」
振り払いきれず、ただ一緒に手を回して遊んでいるだけになっていることに気づき、怒った柚子さんが俺の手に爪を食い込ませた。
けれどこういう時にも優しさを忘れない柚子さんだから、無意識に遠慮しているのか全然痛くない。
どうしたって俺からは逃げられないと思ったのか、「橘くんだって」と柚子さんが口を尖らせた。
「子どもには優しくしてるのに、俺には全然じゃん」
「え? 俺が? 子どもに優しかった?」
純粋な気持ちで子どもに接していたわけではないから、拍子抜けする。
柚子さんに抱っこしてもらい、ベタベタと触っている子どもに嫉妬をし、柚子さん以外に意識を向かせるために一生懸命相手していただけだったから。
……まぁさすがにそれを正直には言いたくないけれど。
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