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夕side

「柚子さんは、俺に触れたくない? 同じ気持ちじゃあないわけ?」 「橘くんっ、」 「なに」 「俺とまた、したいの?」 「はぁ? したいに決まってるじゃん。前にして以降、ずっとお預けなのはさすがにキツイんだけど。俺は毎日でもあんたに触れたいよ」 「ま、毎日……!」  強めに額を合わせると、少し鈍い音がした。  痛みを感じたから、柚子さんも同じように痛かったはず。柚子さんは当たった部分を手で押さえ、時々俺のほうをちらりと見ながら少し後ろへと下がった。  その分、俺が距離を詰めることを繰り返していると、とうとうベッドフレームまで柚子さんを追い詰めた。  俺は毎日会って、毎日キスをして、毎日その身体に触れてたとしても、それでも足りないくらいに柚子さんを求めるし、この好意に際限なんかない。それくらいの気持ちでいるよ。    両手でフレームを掴み、その腕の中に柚子さんを閉じ込める。もう逃げられないよと見つめながら柚子さんの唇を舐め上げると、彼の目にじわりと涙がたまった。 「俺のこと触るの、楽しい?」 「は?」 「だって、俺、」  柚子さんはそこまで言って両手で顔を覆うと、それから何も言わなくなってしまった。かすかに震えている肩から、泣いているのが分かる。  正直、この俺の反応を見て何が心配なのかと言いたくなる気持ちもあるけれど、でも、それ以上言葉で言われなくても、何を気にしているのか分かるよ。  初めて体を繋げた時も、そうだったもんね。 「柚子さん」  ねぇ、柚子さん。不安で心配になる気持ちを抱くことを別に否定はしないけれど、一つ間違っていることがあるから、それは言わせてもらうね。 「柚子さんは、俺のこと好き?」 「え……」  驚いた声を漏らし、顔を覆う手の力が緩んだ一瞬の隙に、俺はその手を掴みこじ開けると、目を腫らした柚子さんを見つめた。  見ないでと俯いて顔を隠そうとする柚子さんを力で押さえつけ、頬を伝う涙を舌先で掬い取る。  そのまま瞼にキスをすると、柚子さんは少し大人しくなった。 「柚子さんはさ、男の人しか好きになれないんだよね? でもさ、俺のことを好きになってくれた一番の理由って、俺が男だから、じゃあないでしょ?」  確かに、男が好きなら俺も好きになってもらえるのかと、告白した時にそう尋ねたけれど、柚子さんだって男なら誰でも好きになるわけじゃあないはずだ。 「俺だから、好きになってくれたんだよね?」 「……うん、」 「俺だってそうだよ。柚子さんだから、好きになった」  これまで女性しか好きにならなかったのに、そんなことは関係なしに、柚子さんはこれまで出会った誰よりも魅力的に見えた。  言葉では説明できない何かに惹き寄せられ、この人を知りたいという衝動を抑えられず、結構強引に近づいたことを柚子さんも覚えているでしょう?    ほんの一部だけれど、つらいことがあってもそれを全てひとりで抱え込んで苦しんでいるところを見ていると、俺にできることはないかと考えてきた。  柚子さんの泣き顔も可愛いけれど、でも心から笑っていてほしいし、そして俺がその笑顔を引き出せる存在でありたいとも思う。  家族や友人への愛情とは違う、特別なこの気持ちを柚子さんにあげたい。 「ねぇ、柚子さん。何が心配?」 「……っ、う、」 「男だからって、そんなことは本当に関係ないんだよ。俺にとってはそんなこと、って感じなの。柚子さんが悩む気持ちも分かるし、それを否定はしない。でもね、俺にとっては本当に大したことないんだよ。胸がなくても、俺と同じものが付いていても、俺は柚子さんを好きになったんだから。身体がどうとか、性別がとか、俺にとっては重要なことじゃあないんだ」  

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