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夕side
「よし、ちょっとだけ話しよ」
「……うん」
これまで見た泣き顔が霞むほど柚子さんは泣き続け、ようやく落ち着きを取り戻した。泣かせたことは申し訳なかったけれど、柚子さんの抱えてきたものを見せてもらえたことはとても嬉しい。
濡れたままだった髪をドライヤーで丁寧に乾かした後、ふたりでベッドに寝転んだ。
あまりフィットしないと笑う柚子さんに腕枕をし、すっぽりおさまるようにして抱きしめる。
柚子さんは寝心地の良いポジションをしばらく探していたけれど諦め、ここで良いやと大人しくなった。
「たまにね、表情が曇るなぁとは思っていたんだよね。また何かひとりで悩んでいるんだろうなぁって。あ、これは、柚子さんの悪いとこだから」
泣き腫らして赤くなった瞼を指先で撫でる。
「スーパーであの家族を見たこととか、俺が子どもを好きだって言ったこととか、いつもの悩みにそれが加わって、さらにぐるぐる悩んじゃったんでしょ?」
別に悩むのは悪いことではないけれど、それをひとりで抱え込んで、こうしたほうが橘くんのためになるだろうからと、勝手に結論を出してしまうのは良くない。そしてその結論はほとんど柚子さんが傷ついてしまうものが多いから。
人に相談することに抵抗があるのも分かるけれど、柚子さんはもう少し人に頼るべきだと思う。弱さを見せてほしい。
これまで俺がそれを引き出して受けとめるほどの力がなかったけれど、これからは俺も変わるから、
「今度から、俺に言って。何もかもひとりで抱え込まないで。俺ももっと、頼りがいのある男になるからさ」
悩み事はふたりで考えよう。だって俺たちふたりの問題でしょ?
再度瞼にキスをすると、柚子さんが少し顔を上げ、唇にキスをしてくれた。「ありがとう」と小さく微笑み、俺の胸元に顔を擦り寄せる。
乾かしたばかりのさらさらの髪に触れながら、額にもキスをする。
「柚子さんが、たまらなく好きだよ」
「……嬉しい、」
「俺がどれだけ柚子さんを好きか、実際に見せることができるんだったら、引かれて終わるんじゃあないかってくらい、とにかくすごいから」
「……見られたら良いのにな」
「俺だって本当に見せたい。見せられないのが悔しすぎる。だって俺、スーパーであの子どもにも嫉妬したんだよ」
え? と驚く柚子さんに、ゆうまくんに構っていた本当の理由を全て話した。恥ずかしくて言うつもりはなかったのだけれど、俺ももっと色んなことを話そうと思ったから。
こんなふうに子どもに嫉妬してしまうくらい、俺だって余裕はない。柚子さんが俺以外のことを大切にしているのも許せないくらい。あまりにも重すぎて、わざわざそこまでは言わないけどね。
「引いた?」
柚子さんが俺の胸に顔を埋めたまま静かになった。そうは言っても引いてないよとの答えを期待していただけに、沈黙が不安になる。しばらくすると、柚子さんの肩が小刻みに震えだした。
「柚子さん……?」
「……ふ、」
「えっ、どうした?」
「……ふふっ、」
「え、」
また泣いてしまう? との考えが一瞬過ぎったけれど、それは間違いだったとすぐに気づいた。柚子さんはけらけらと笑い出した。
そんなに笑える話ではないような気がするのだけど。「え? 子どもに嫉妬してるの? そんなことある?」みたいな、そういう笑いなのか?
「柚子さん、」
「ふはっ、」
「笑いすぎだよ」
「だって、」
柚子さんの顎を持ち上げ、無理やり俺のほうを向かせると、口をきゅっと閉じて笑いを堪えた後、何も言わなくなり眉を垂らした。
その後ひとりで頬を赤くし、照れたようにまた、俺の胸に顔を埋める。それから背中に手を回し、抱きついてきた。
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