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夕side

「柚子さん……?」  何が起きたか分からないけれど、とにかく可愛い。柚子さんのほうから甘えてくれることは少ないから、貴重な一回だ。  どうしたの? と頭を撫でると、柚子さんが小さな声で何かを言った。 「なんて?」 「……俺も」 「俺も?」 「……子どもに嫉妬してたよ」 「え、」 「橘くんは、面倒見がいいから、絶対子ども好きだろうなって思って。だから、先に抱っこした」 「……ああもう!」  突然された告白があまりにも可愛すぎて、それ以上言葉が出てこない。  きっと俺と同じことを考えていたことが面白くて笑ったんだろう。けれど、笑った以上は理由を聞かれるから、自分も同じことを思っていましたと伝えることを想像したら恥ずかしくなったのかな。  俺の発言を受けてからの、柚子さんの表情の変化の理由がなんとなく分かって嬉しい。些細なことで良いから、これからも思ったことは伝えてほしいな。 「俺たち、心狭すぎだね」  頭を撫でながらそう言うと、柚子さんもまた笑い出した。 「ふふ、」 「ゆうまくんに悪いことしたね」 「うん」 「ふはっ」  大して面白くもないのに笑いが止まらなくなる。柚子さんの表情はもう曇ってはいなくて、その嬉しさも加わり、顔を見合わせては何度も笑った。  柚子さんは腕枕から抜け出すように身体を上へと動かすと、俺の首に腕を回しそれから微笑んだ。  もしかして柚子さんからキスをしてくれるのかと期待したけれど叶わず微笑まれて終わってしまったから、俺も微笑み返しそれから目を閉じた。  え? と戸惑った声が聞こえるけれど、それでも目を開けずにいると、柚子さんの手が頬に重ねられる。すりすりと親指の腹で撫で、今度は鼻先や瞼に指先で触れる。  ここまでしてもまだキスをしてくれないのかと目を開けた瞬間に唇が重ねられ、「ん!?」と驚いた柚子さんが見えた。  視線を泳がせながら状況を確認した後、恥ずかしさから頰が染まり離れようとする柚子さんを、腰に回した手で引き留め、思わず開いたままの口に舌を滑り込ませた。  目を閉じることも忘れ、相変わらずキョロキョロと視線を動かしながら、必死に応じる柚子さんが可愛い。 「たち、ば、な……ん」 「なあに」 「も、む……り、」  最後に舌を咥え上下に動かしながら吸い上げると、その度に可愛い声が漏れ出た。  このまま柚子さんに触れて良いだろうか。  ズボンの中に手を入れ柔らかなお尻に触れると、ぴくりと肩が動いたけれど、それ以降反応が鈍くなる。   「柚子さん?」 「……ん」  見れば瞼が重くなり、今にも寝てしまいそうだった。この状況で嘘だろ!? と思うものの、感情が大きく動き続けた時間だったのだから疲れて当然、との気持ちもある。 「もう寝る?」 「……ん、」 「明日の授業は二限からだったっけ?」 「……ん」   「じゃあ朝は少しだけゆっくりできるね。お昼はみんなで学食行こうか」 「……い、く」  柚子さんの瞼が完全に閉じた。落ち着いたリズムで聞こえる寝息に安堵し、俺は柚子さんの頭下に置いていた腕を退かした。  そこにそっと枕を差し込み、それからタオルケットをかける。 「柚子さん、おやすみ」  手を伸ばし、ローテーブルに置いていたリモコンを取り、消灯ボタンを押す。ゆっくりと暗くなっていく部屋の中で、俺は柚子さんの髪にキスをした。 「柚子さん、大好きだよ。良い夢見てね」

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