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夕side

 ベッドを背もたれにしながら、柚子さんが焼いてくれたパンを頬張る。小さなローテーブルに男ふたりの横並びは狭いけれど、肩が触れる距離で座れるのは嬉しくもあった。  特に見はしないけれど、テレビをつけてニュースを流した。平日の朝も、柚子さんと過ごすと楽しいし、朝が始まったと憂鬱になるニュース番組のアナウンサーの声すら、心地よいBGMになる。 「もう一枚もらうわ」  焼きたての食パンにマーガリンは最強だから、ぺろりと食べ終わり、俺は二枚目を手に伸ばした。今度はイチゴジャムで食べようかな。 「俺も二枚目食べる」  ジャムを手に取った時、そう言って柚子さんが二枚目に手を伸ばした。 「あ、先にジャム使う?」  先にどうぞと差し出すと、柚子さんは首を横に振り、次もマーガリンを手にした。 「ジャムは後からでいい」    今、マーガリンを塗っているのに、ジャムも使うの? 「へ? 三枚食べるの? 追加して焼こうか?」  普段はそこまで大食いではないはずなのに、朝ごはんのパンはそんなに食べるのかと驚くと、柚子さんはまた首を横に振った。 「マーガリン塗って、その上にジャム塗るの」 「えっ、その量のマーガリンの上からさらにジャム? 柚子さんってけっこう甘党だね」 「ん?」 「だってそれ、相当甘いでしょ」 「おいしいよ」  ご機嫌な様子で、たっぷりのマーガリンの上にたっぷりのジャムを塗る柚子さん。見るだけで口の中が甘くなりそうなそれに、満足そうな顔でかぶりついた。  特別なものでも食べたかのような幸せそうな表情が、あまりも可愛くて思わず笑ってしまう。  しばらくの間、自分のパンを食べることを忘れ、食べ進める柚子さんを見つめていると、ん? と俺を見つめ返して首を傾げ、それから食べかけのパンを差し出した。  大きな歯型がついている。それさえも可愛い。 「なに? 食べろってこと?」 「うん」  柚子さんの歯型部分を食べたかったけれど、そうすると大量のマーガリンとジャムが頬に付きそうだったから、あえて端のほうを食べた。 「おいしい?」  一口かじった俺に、柚子さんが相変わらず可愛い笑顔でそう尋ねる。おいしいと言ってあげたかったけれど、ごめん。これはあまりにも甘すぎる。  「すごい甘い」 「そう?」 「俺、一口で十分だわ」  すぐさまお茶を飲み口の中をすっきりさせると、それから自分のパンを食べた。……うん、ジャムはこれくらいがちょうど良い。  そんな俺を見て、柚子さんがこのおいしさが分からないのかと、唇を突き出しムスっとした顔になる。  俺はけらけらと笑い返し、柚子さんの肩に体重を預けた。 「橘くん、」 「え?」  なんとなく視線をテレビに向けたタイミングで視界が暗くなり、気がつけば唇には柔かな感触があり、鼻を甘い香りが抜けた。  ちゅっと軽めのリップ音がし、柚子さんにキスをされたと気づいた。  急なデレに固まる俺を見て、今度は柚子さんがけらけらと笑う。悪戯な表情をし、それから「甘い?」と尋ねる。 「それずるすぎるだろ」  聞かなくても分かるでしょ。甘い以外の返事はない。  柚子さんが可愛すぎで、それ以上の言葉が出てこない。悶える俺を見て、にやりと笑う。  この人は、どうしてこんなに俺を振り回すのがうまいんだ?  サラダを準備していた時の続きでもしてやろうかと軽く睨みつけながら、柚子さんの頬を摘んだ。  さっきから刺激されてばかり。どうしてこんなに可愛いのだろう。今から学校がなければ、笑っていられないくらいに俺が乱せたのに。 「ああもう! マジで覚えとけよ」  俺は残りのパンを一気に口へと押し込んだ。  柚子さんはそれにまた笑い、木の実をたくさん詰めたリスのようにパンパンになった俺の頬を指先でつついた。

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