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夕side
「橘くん、」
「なに」
「……ありがとうね」
「え? まさか覚えとけって言ったこと?」
「……違う」
「ってのは、まぁ俺の願望だけどさ。……何がありがとうなの?」
食べ終わった柚子さんは俺の肩にもたれかかってそう呟いた。
何に感謝されているのか分からず柚子さんのほうを向くと、口周りにジャムがついているのを見つけた。後頭部に手を回し、こちらを向かせるとそのままぺろりと舐めとった。
「甘い?」
「甘いよ、ほら」
なんとなくジャムの香りが残ったまま改めてキスをすると、た柚子さんが「甘い」と言ってふにゃりと笑った。
「橘くん。俺ね、いつもより幸せだ」
「俺も、幸せだよ」
「ね、覚えておくからさ、今日も泊まってよ」
甘えた声で、でもどこか自信なさそうに震えてる声で可愛いわがままを言う。言われなくても泊まるつもりだったと返事をすると、テーブルの下で伸ばしていた脚をバタバタと動かした。
同じように俺も動かしてみると、「真似しないでよ」と小突かれる。
俺は柚子さんの手に自分のを重ね、それから指を絡めた。
「いっぱい甘えてよ。今まで我慢していた分もさ」
「……うん」
「それにさ、俺もさっき泊まる回数を増やそうかなって思ったんだよね」
「……そうして、ほしいな」
「ずっと一緒が良いよね」
これからもっと一緒にいる時間を増やして、柚子さんの中で俺といることが当たり前になれば良い。こんなことを考えるのは重いかもしれないけれど、俺を選んだ柚子さんだって悪い。
柚子さんと付き合うまでは、誰かに対してここまでの想いを抱えたことはなかったんだから。
「柚子さんが甘えてくれる分、俺もわがまま言おうかな」
「わがまま?」
「うん、わがまま」
柚子さんの髪を耳にかけ、頬にキスをする。
「そう遠くないうちに一緒に住みたいなぁ」
朝起きたらまず柚子さんが隣にいる嬉しさを噛み締め、キスで起こした後に一緒に朝ご飯作るの。休日は特にいちゃいちゃとじゃれあいながらさ。
ゆっくり準備をして出来上がったら、今みたいに隣に並んで座って、可愛い柚子さんと肩が触れる距離で朝ご飯を食べる。ふたりで今日のコーディネートを考えのんびりとデートをし、夜は一緒にテレビを見ながら笑う。入れる時は一緒に一緒にお風呂に入り、同じベッドで寝るの。おやすみとおはようのキスも欠かさずにね。
「どう? 多分そうなるまで、やたら柚子さんの家に泊まりにくるだろうし、俺の家にも泊まりに来てって言っているだろうけど」
「……っ、」
今日のおはようのキス、と言って口を塞ぐと「何回目だよ」と笑う柚子さんの目尻に涙が溜まった。
優しく指先で触れると、顔を上げ、曇りのない笑顔で笑ってくれる。
「……嬉しい、」
「なら良かった」
この笑顔が見られるのなら、俺は何だってするし、絶対に離してなんかやらない。
この約束も、言葉通りそう遠くないうちに実現させてみせる。
柚子さんの笑顔を見ながらそう誓った。
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