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夕side2
テストも無事に終わり、俺たちは夏休みを迎えた。
今日は特に何もする予定はなかったけれど、次の大きな予定を決めるために良樹の家にみんなで集まった。
一人暮らしの家にこのこの人数が集まるとなかなかに窮屈だけれど、良樹の家に限らず、誰かしらの家で定期的に行われている。
夏といえば、なイベントはすぐにいくつか思いつくほどたくさんあるから、じっくり決めようと思っていたのに、今回は集まってすぐ、「海行こーぜ海」という良樹の一言にみんなが賛同し、一瞬で決まってしまった。
「ヨッシー、飲み物買ってきてー」
「は? 人の家に来て偉そうにすんなよ」
「はぁ? 私お客様なんだけど」
他にすることがないからと、部屋にあるDVDを菜穂が漁ってめちゃくちゃにし、今度は飲み物がなくなったことにぎゃんぎゃん騒いでいる。壱と千夏は、そんなふたりに構うことなく、穏やかな様子で次に観る映画を決め始めた。
「……、」
今日の柚子さんはというと、高岡さんとふたりで課題をやるからと、朝から出かけてしまったから隣にはいない。
昨日も柚子さん家に泊まったし、夏休みに入ってからも多くの時間を過ごしているのに、それでも柚子さん切れみたいだ。
俺はきっと病気だと思う。どうしようもないや。
「ヨッシー、飲み物買ってきてってば! 喉乾いた! カラカラ! あたし干からびる!」
「だったら水道水でも飲んでろよ」
「やだ! だって水道水ってぬるいし不味いじゃん」
「文句あんなら自分で買って来い。そこら辺の自販機でもコンビニでもいいだろ。というか、自分の家から持ってくればいいじゃん! むしろ持ってこい!」
「私の家にもみんなで飲めるような飲み物ないもん!」
柚子さんを恋しがる俺をよそに、相変わらずふたりは言い合いをしているし、壱と千夏は新しい映画が決まったようで勝手に再生し始めた。
騒がしいふたりをさらに盛り上げるかのように、テンポの良い曲が流れ出す。
このタイミングでスパイものを観るか? と驚きながらボックスの中身を見ると、この映画のシリーズ全てのDVDがそこに入っていた。
月額料金支払えば気軽に見られるのに、それでもDVDを集めるなんて、相当好きなんだな。良樹は見た目的にチャラチャラしていると思われがちだけれど、こういうところにも素直で一途な性格が出ているように思う。
でもそれだけ好きなのに、好きな映画の曲が流れていることに気づかず、良樹が目の前の菜穂の対応でいっぱいいっぱいになっているこの状況が地味に面白い。
「じゃあ俺買ってくるよ。どうせ今、特にやることもないから」
笑いながら立ち上がり、服のシワを伸ばしてから財布を手に取ると、菜穂と良樹に「これは俺らの問題だから」と謎に止められた。
いや、始まりはふたりかもしれないけれど、飲み物は全員が飲むものなんだから、“俺らの問題”ではないと思うのだけれど。
「え? 俺、行かなくて良いの?」
「そうだよ、私か良樹が行くの」
「だったらふたりで行けば良いじゃん。もしみんなの分も買うんだとしたら、菜穂ひとりだときついよ」
「ほら、だから良樹が行けば良いって言ったんじゃん」
「俺だって俺だけは嫌だよ」
「だったらふたりで行きなよ。それか俺と良樹」
騒がしかったふたりが大人しくなった。
菜穂は前に俺と柚子さんのことについて、知っている感じを出してきていたけれど、それをそのまま返したい。俺だって気づいていますが?
良樹はいまいち分からないけれど、菜穂の矢印は良樹に向いていることだけは分かっているよ。
「菜穂、どうするの? 良樹は決定したけど、菜穂が行く? 俺が行く?」
菜穂にそう尋ねると、それは違うという顔をされた。
「……どっちでもいい」
「どっちでもって、」
それなのに、どっちでもいいなんて可愛くない返事をしてどうするんだよ。
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