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夕side2

 今日の出来事を振り返りながら、これまでの柚子さんとこれからの柚子さんに思いを巡らせる。  少し感情の整理が進んだところで、柚子さんたちに今日の提案を伝えることにした。まずは柚子さんから誘って、それから高岡さんに連絡をしてみよう。  柚子さんは、海に行こうと言ったら喜んでくれるだろうか。 『もしもし、橘? 俺、高岡』  柚子さんの喜んだ時の声色を想像し、楽しみに電話をかけたのに、聞こえてきたのは高岡さんの声だった。  こんなことってある? 高岡さんにも一気に連絡できてその点では良かったのかもしれないけれど、恋人にかけて違う男が出ることに良い気はしない。 「……こんばんは」  高岡さんには申し訳ないけれど、テンションが下がって、それを隠しきれない。柚子さんのスマホなのに、どうして高岡さんが出るんだよ。 『今さ、俺の家にいるんだけど、真宮ね、ついさっき寝ちゃったんだよね。スマホが鳴っても起きなくてさ。見たらお前の名前だったから出ちゃった』 「あ、そうなんですか」  確か、ふたりの家はそんなに近くなかったはずだ。疲れて寝ているのであれば、柚子さんはそのまま高岡さん家に泊まるってことだよな。  ……いやいや。  何考えてんの? バカじゃん。仲の良い友人宅に泊まるなんて当たり前のことだろ。  柚子さんからすれば、俺が菜穂や良樹の家に泊まるようなものってことだよな。  ……え? ん? それなら何の問題もないのか。俺が菜穂の家に泊まったとしても、そこで何か起きるわけじゃあないし。  柚子さんのことを疑うとか、そういうことでは絶対にないけれど、予想していなかった出来事に軽くパニックになってしまう。 『真宮ってば、酒弱すぎてすぐ寝ちゃうんだよ』 「そうなんですね。お酒一緒に飲めるの良いですね……」  ああ、やっぱりダメだ。  酒という単語に、過剰に反応する自分がいる。柚子さんは俺といる時にはお酒を飲むことがないから、彼が酔うとどうなるのかを俺は知らない。  寝ているって、大丈夫なのかな。 『何か用事でしょ? もし良かったら伝えとくけど』  スマホからは、いつも通りの優しい高岡さんの声がする。その声を聞いていると、こんなこと考えてしまう自分のことが嫌になってくる。思考が幼すぎるし、恥ずかしい。 「今日、いつものメンバーで集まった時に、海に行こうかと話したんです。来週の月曜日に行くんですけど、柚子さんと高岡さんも誘いたいなあと思って」 『お? 海? 今度の月曜日?』 「はい、そうです」 『それなら問題ないわ。行ける行ける。真宮には明日聞いとくな?』 「お願いします。あ、それから」 『ん?』 「明日のお昼、柚子さん家に行くって伝えててください」 『分かった、伝えとく』   「じゃあ、おやすみなさい」 『おう、おやすみ』  高岡さんの声が終始穏やかで、そこから感じる余裕に対して勝手に動揺してしまう。  そう言えば、いくつか気になることがあるな。  高岡さんは俺よりも一年多く柚子さんのこと見てきているけれど、柚子さんの恋愛に関してはどこまで知っているのだろうか。  高岡さんは、柚子さんがあまり気持ちを言ってくれないとは言っていたけれど……。  高岡さんと一緒にいる時の柚子さんは、他の人と比べたら随分気を許しているように見えるし、学校でもふたりで行動していることが多いように思う。  もちろんその他の人とわいわい集まっている時もあるかれど、見かける時は圧倒的に高岡さんとふたりが多い。  だから柚子さんの友人の中で、俺らと仲良くなったのも高岡さんだけだったから。  高岡さんは優しくて親しみやすく、おちゃらける時もあるけれど誰よりも周りが見える人だし、年齢差がひとつの割にかなり大人びて見える、理想の人だと思う。俺もあいつらも、高岡さんのことが大好きだ。  だからこそ、こんなことぐるぐる考えている自分が嫌だし、申し訳ないとも思う。  もちろん柚子さんに対してもね。どれだけ心が狭くて余裕がないのかと、自分でも呆れる。

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