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夕side2
だけど、気になって仕方がないんだ。
高岡さんは柚子さんに対して、俺と同じような感情を抱くことはなかったのだろうか。
それに柚子さんも、こんなに良い人が隣にいて、好きなることはなかったのかな。
「あー! ネガティブ思考が止まらん!」
俺は柚子さんに出会う前は、特に何も思うことなく当たり前に女の人を好きになっていた。中学も高校も彼女はいたし、性別は関係ない、その人だから好きになった、みたいな考えを持ったこともない。
異性愛者が大多数の世界だし、なんだかんだ俺もそれが普通のことだと思っていた。
けれどあの日、雨の中歩いている柚子さんを見つけて、そのまま見過ごしてはダメだとどうしてか強くそう思ったから、傘を持って追いかけたんだ。
そうして追いついて声をかけたけれど、柚子さんはぼーっとしていて俺の声が聞こえていないみたいだったし、せっかく来てあげたのに無視するんだ? と少しムッとしながら頭を傘で叩いたんだよな。
別に無視すれば良かったし、柚子さんに頼まれたわけでもないのにね。それでもやっぱり見なかったことにはしたくなかった。
柚子さんにも伝えたことだけれど、俺はわりと雨が好きだ。外出先で降られたら迷惑だと思うことも多いけれど、部屋の中にいて、窓から眺めたり音を聞くことでほっとすることもあるくらい。
静かな部屋で、雨の音を聞くと心が落ち着く。
自分だけしかいないような、そんな寂しい気持ちにさせられるけれど、でもそのおかげで、確かにここに自分がいると思うことができるから。
だからその自分の世界に、ぽつんと違う存在が現れたから、柚子さんのことが気になってしまったのかもしれない。
そしてそれも、運命だったんだと思う。あの時、俺がしたことに振り返った柚子さんを見た時、今まで感じたことないくらいに心臓が跳ねた。
感覚的にこの人だと思ったし、手に入れたい、俺のものにしたい、なんて気持ちもわいた。
柚子さんを知ってる今では、彼が可愛くて可愛くてたまらないけれど、客観的に見た時に特別顔が整っているわけでもない。何か目立つような特徴があるわけでもない。
けれど一目見た瞬間、確かに特別な何かを感じたんだ。
雨の中、ひとりで泣いて何をしているの? 雨で悲しみが流れるはずもないのに、バカじゃないの?
そう思うのに、勝手に身体が動いて、柚子さんを捕まえていた。きっと、部屋を飛び出した時から、ううん、もっと前……視界に柚子さんが入ってきた時から、何かを感じていたのかもしれない。
だからあの時、最初からそのつもりで迎えに来たと、自然と言葉が溢れたんだろう。
けれど、運命を感じたし、感覚的に惹かれた俺は一瞬で目が離せなくなってしまったのに、高岡さんはあれだけずっと一緒に過ごして、何も感じないものなのか?
専門の授業は全て同じだし、共通の授業もわりと同じものを選択している。だからあのふたりは、平日は必ず顔を合わせているわけだし。休日だって一緒に過ごすこともあるじゃあないか。
そんなに時間を共有しても、好きになることはなかった……? 男は絶対に恋愛対象外だと分けている? 自覚がなくても無意識にはっきりと線引きしているのかな。
もしそうなら安心だけれど、それはそれで柚子さんに魅力がないようで腹が立つ。
いや、でも、それよりも気になるのは、柚子さんの気持ちのほうだ。柚子さんが過去に好きだった人とか、いちいち気にしていられないけれど、高岡さんはずっと一緒にいるし、これから先もきっと長い付き合いになるだろうから無視はできない。
それに見た目的なことを言えば、柚子さんが付き合ってたあの人と、高岡さんは同じような顔の系統にも思える。
……ああ本当ダメだ。俺の思考があまりにもダメすぎる。
柚子さんのことになると有り得ないくらいに余裕がなくなるし、ダサすぎる。気持ち悪いし、バカみたいだ。柚子さんにも高岡さんにも失礼なことだし。
「……、」
どんなに気にしていても、ひとりで考えて解決できることでもないし、仕方がないから、もう悩むのはやめよう。
俺は、何もかもがめんどくさくなって、そのままベッドに飛び込んだ。
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