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夕side2

◇  高岡さんに伝えてもらっていた通り、俺はお昼に柚子さんの家に遊びに行った。当たり前に柚子さんに俺からも連絡したけれど、でもあの時は高岡さんに“明日は俺が会う”宣言を衝動的にしてしまったんだ。  一日会っていないだけなのに、なんだか久しぶりな感覚がしてしまうから、やはり病気かもしれない。 「橘くん、昨日はごめんね。寝ちゃってた」  部屋に入ったと同時に、まず昨日のことを謝られた。柚子さんは寝ていて電話に出られなかったことだけを謝っている気がする。何もやましいことがない証拠だ。 「明後日ね、全然大丈夫だよ。海すごく楽しみ」  飲み物を用意しながら、水着あったかなぁと気にしている。そんな柚子さんを見て、またくだらない勝手な思考がぐるぐると動き出す。  泊まるのは、別にやましいことがある、ないだけの話じゃあなくて、あの可愛い寝顔を高岡さんに見られているってことでしょ。 「あー、もうダメ。ごめん柚子さん」 「え?」  俺は隣に座った柚子さんの肩に頭を預けた。 「お酒弱いなら、いっぱい飲んじゃダメ」 「ん?」 「いくら高岡さんだからって、無防備に寝顔を見せるのなし」 「……え? 寝顔?」 「昨日柚子さんに電話したのに高岡さんが出たからびっくりしたんだよ。柚子さんは寝ているからと言われるし、ああ高岡さんの家に泊まるんだ、同じベッドじゃないにしても、同じ空間で寝るんだと思ったら、なんかもうぐちゃぐちゃになって」 「ぐちゃぐちゃ……?」 「俺、自分で思っていたよりも、かなり嫉妬深いみたい。……違う。みたいじゃあなくて、本当に嫉妬深い。束縛激重野郎かもしれない」  言ってることがめちゃくちゃで、勝手で、うざいという自覚があるから、それを誤魔化すかのように早口で言い切ってしまった。  その言い方のせいで、さらに圧がかかってしまったようにも思う。余裕のなさが恥ずかしい。  俺はそのまま、柚子さんの肩に顔を埋めた。恥ずかしくて、柚子さんの顔が見られないや。 「橘くん」  そんな俺に対し、柚子さんは怒るでもなく、呆れるでもなく、いつもの優しい声で名前を呼んでくれた。顔を上げて柚子さんと視線を合わせる勇気はないから、返事もせずに固まっていると、頭をそっと撫でてくれる。  その触れ方があまりにも優しい。 「……ふっ、」  俺の頭に触れる柚子さんの指先に意識を集中させていると、一分も経たないうちに撫でるのをやめ、柚子さんは突然笑い始めた。  やはり呆れられたのかもしれない。 「……どうして笑うの」 「だって……、だって、さ……ふっ、ふふ」 「だって?」 「橘くんが可愛いから」 「はぁ?」  笑われた理由が想像と違ったことに驚き、咄嗟に顔を上げると、それを待っていたかのようにキスをされた。  柚子さんが頬を赤らめながら微笑んでいる。  可愛いのは柚子さんのほうじゃん。こんなの反則だよ。 「橘くん、可愛いなぁ」 「……バカにしてる?」  俺は柚子さんに可愛いをたくさん伝えてきたけれど、反対に言われることには慣れていないから、正しい反応が分からない。拗ねたような、可愛げのない態度をとってしまう。 「今までは高岡と俺が一緒にいても何も言ってこなかったのに、どうして今になって突然嫉妬なんかするの。……ふふっ、」 「ちょっと柚子さん、笑わないでよ。俺、怒るよ」 「ふふ……っ、」 「柚子さん、」  笑うのを我慢しようとしてか、口元を押さえているものの、全然我慢できていない柚子さんを見ていると複雑な心境になる。  嫉妬したことにネガティブな印象を持たれなかったのは良かったけれど、かと言って笑われるようなことではないはず。  そんなにおかしなことだった? 俺は、かなり真剣なんだけどなあ。

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