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夕side2
電話を切ると、柚子さんが起き上がり、心配そうな顔で俺を見ていた。家で何かあったの? とでも言いたそうな顔。確かに帰省の予定を待たずにいったん帰るとなれば、何かあったのかも心配にもなるもんね。
俺はそんな柚子さんの頭にぽんぽんと優しく触れた。
「従兄が来るらしいから、俺明日家に帰るね」
「龍さんって人……?」
「うん、そう。良くしてもらっいて大好きな人なんだ。今は海外に行っていてなかなか会えないから、せっかくだし明日会って来ようと思うよ」
龍と俺が従兄弟の中でも仲良しなのは、家がわりと近いところにあったことも影響しているんだろうな。
歳は離れていたけれど、龍が高校生の時も遊んでくれていたし、大学生になって帰省した時も必ず俺に会いに来てくれていた。
龍にはどんな悩みでも相談してきたし、とにかく色んな面でお世話になっている。
そんな龍との思い出を柚子さんに話すと、柚子さんも少しだけ自分の家の話をしてくれた。
柚子さんの家は、お母さんがひとりっ子だし、お父さんはふたり兄弟だから、親戚はあまりいないらしい。
お父さんのお兄さんは、子どもがひとりしかおらず、お父さんとお兄さんの歳の差が大きく、それで柚子さんと従兄にも年齢差があるからか、一緒に遊んだ記憶がないとか。
でも優しい人で、数年に一度会う機会がある時は、色んな話をしてくれるらしい。
従兄の話をしている柚子さんの表情が柔らかいから、きっと優しくて素敵な人なのだろう。
……そういえば、柚子さんはいつ帰省するのかな。
柚子さんの実家は飛行機でしか行けないところにあるから、元々あまり帰省はしていないみたいだけれど、夏休み中は帰らないのかな? それとも今月半ばから九月までずっと帰るとか?
「ねぇ柚子さん」
「ん?」
「俺はさ、明日一旦帰るけど、ちゃんと帰省するのはお盆の時なんだ」
「うん」
「柚子さんは、いつ帰省するの?」
「……俺も、お盆の時だけ」
お盆の時だけだとあまりにも短いけれど、柚子さんはそれだけで良いのかな。久しぶりに会うなら友人や家族とゆっくり過ごす時間も必要なはずだ。
柚子さんから聞く家族の話は温かいものが多かったし、遠くに来ていて滅多に会えないのに、それだけで良いのかな。たった数日だなんて、寂しくはないのかな。
どうしてもっと帰らないの? と、そんな疑問が頭を過ぎり、思わず口から言葉が溢れそうになったけれど、すぐにその言葉を飲み込んだ。
柚子さんの少しだけ曇った表情を見て、確かではないけれど、帰省期間が短い理由が分かってしまったから。
高岡さんや津森さんの話もしてくれたのに、柚子さんにこれ以上話をさせてしまうのは負担だろうから、聞くのはやめよう。
「じゃあ、俺たちちょうど帰省期間が被るわけだ」
「うん」
「帰ってきたら、またたくさん遊ぼう」
「うん、近場で良いから、ふたりで出かけたいな」
「いいよ、行きたいとこ決めなきゃね」
おいで、と手を広げると、柚子さんが飛び込んできた。その表情は笑顔が戻り、それにほっとしていると柚子さんからキスをしてくれた。
「ね、もう一回キスして」
「やだ」
「柚子さん、お願い」
「やだって、もう……」
ちょっと予定より早まったけれど、伝えるタイミングとしてちょうど良いかもしれない。龍にも絶対話しておきたいし、柚子さんをちゃんと安心させてあげたい。
それに俺も、堂々と柚子さんの横にいたいから。
「してくれないなら、さっきの続きしちゃおうかな」
照れ笑いしながら逃げようとする柚子さんを、腕の中に閉じ込め、それからまたキスをした。
「電気消さないから」
「意地悪じゃん……」
「可愛い子には意地悪したくなるの」
待っててね。
俺、柚子さんのこと、本当に離す気ないからさ。
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