83 / 101
夕side2
「ふぅーっ、ちょっともう既に遊び疲れてきちゃった」
「そりゃあ、あれだけキャッキャしてれば疲れるだろうよ」
足が届くか届かないかギリギリのところで泳いだり、頭まですっぽり隠れてしまうくらい深いところまで潜ってみたり。
とにかくみんなでワイワイしていたら、水の中だし思いのほか体力を奪われてしまった。
最初は菜穂が千夏の浮き輪に捕まって休憩を始めたのだけれど、次第に壱や柚子さん、良樹まで浮き輪に手を伸ばし始め、浮き輪も掴めるところがなくなってしまったから、とりあえず海から出て休憩することにした。
ずっと海に入りっぱなしもいけないし、お腹も空いてきた頃だしちょうど良い。
俺と柚子さん、それから良樹の三人で、適当に焼きそばやらかき氷やらを買いに行った。
平日ということもあり比較的空いていて、お店でもそこまで並ばずに購入できた。
「きーちゃん先輩、かき氷レモンにしたんですね」
みんなで輪になって座り、買ってきたものを食べ始めた時、菜穂が柚子さんに話しかけた。
相変わらずな奴め。ちゃっかり柚子さんの隣をキープしている。
「うん、レモン好きだからね」
柚子さんはそう返事をして、幸せそうな顔でかき氷を口に運んだ。
多分その顔があまりにも可愛かったからだろう。菜穂が自分のイチゴ味のかき氷をスプーンに掬い、それから「あ~ん」と柚子さんの前に差し出した。
おい、菜穂。いくら柚子さんが可愛くてお気に入りだからって、それはやっちゃダメだろ。
今すぐそのスプーンを引っ込めろと、目で訴えてみたけれど、菜穂はやめるどころかニヤリと笑みを浮かべた。
柚子さんは、そんな菜穂には気づかずに、少し戸惑いながらも遠慮がちに口を開く。
「ちょっと! ああもう、それきーちゃん先輩の!」
「うっわ、あめぇ。つか、着色料って感じの味じゃん」
けれど、なぜかそのかき氷を食べたのは、菜穂の隣に座っていた高岡さんだった。
柚子さんの口に入る前に、菜穂の手を掴み無理やり自分のほうへと向けた。それに自分で食べたくせに、感想は言いたい放題だ。
柚子さんはポカンとして口を開けたままでいる。
「高岡先輩、最悪なんですけど! きーちゃん先輩のかき氷だったのに! きーちゃん先輩に食べさせたかったのに!」
怒った菜穂が、氷の山にザクザクとスプーンを突き刺す。その様子を見て高岡さんは、謝ることもなく満足そうに笑った。
状況が少しずつ見えてきた柚子さんが、開けたままにしていた口を慌てて閉じた。
その様子を俺に見られていたことに気づいて、恥ずかしさからか菜穂と同じように氷の山にスプーンを突き刺している。
それからどうしてそうなったのかは分からないけれど、このタイミングで良樹が「俺にも食べさせてよ」と身を乗り出した。
菜穂が仕方ないなあと反応する。けれど高岡さんが菜穂からスプーンを奪い、氷を掬うと良樹の口に突っ込んだ。
「これでいいだろ?」
「高岡さん、ひどいっすよ」
「私のかき氷なのに……!」
高岡さんの勝手な行動に、菜穂がさらに拗ねる。せっかく良樹に食べさせてあげられるチャンスだったのにね。
自分が柚子さんにちょっかいかけるからだよと思いながら、菜穂に向かってべーっと舌を出すと、菜穂に睨まれた。
その状況をどうにかしようとしてか、柚子さんが菜穂にスプーンを差し出した。そこには柚子さんのレモン味のかき氷が乗っている。
まさか、菜穂に食べさせる気?
「菜穂ちゃん、ほら。あ~ん」
……最高に可愛い笑顔までセットだ。ずるい。俺だってしてもらえていないのにさ。
止めに入れるわけもないし、こんなことを考える自分の心の狭さに泣きたくなる。
以前に嫉妬してもらえるのは嬉しいと言われたけれど、それとこれとは違う。これはする必要のない嫉妬だ。
ひとりで静かに拗ねながら焼きそばを口に運んだ時、高岡さんが豪快に笑った。
「真宮ってばかだなぁ。何のために俺が菜穂ちゃんのあ~んを阻止したと思ってんだよ。彼氏が怒るぞ」
ともだちにシェアしよう!