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夕side2

「ふぅーっ、ちょっともう既に遊び疲れてきちゃった」 「そりゃあ、あれだけキャッキャしてれば疲れるだろうよ」  足が届くか届かないかギリギリのところで泳いだり、頭まですっぽり隠れてしまうくらい深いところまで潜ってみたり。  とにかくみんなでワイワイしていたら、水の中だし思いのほか体力を奪われてしまった。  最初は菜穂が千夏の浮き輪に捕まって休憩を始めたのだけれど、次第に壱や柚子さん、良樹まで浮き輪に手を伸ばし始め、浮き輪も掴めるところがなくなってしまったから、とりあえず海から出て休憩することにした。  ずっと海に入りっぱなしもいけないし、お腹も空いてきた頃だしちょうど良い。  俺と柚子さん、それから良樹の三人で、適当に焼きそばやらかき氷やらを買いに行った。  平日ということもあり比較的空いていて、お店でもそこまで並ばずに購入できた。 「きーちゃん先輩、かき氷レモンにしたんですね」  みんなで輪になって座り、買ってきたものを食べ始めた時、菜穂が柚子さんに話しかけた。  相変わらずな奴め。ちゃっかり柚子さんの隣をキープしている。 「うん、レモン好きだからね」  柚子さんはそう返事をして、幸せそうな顔でかき氷を口に運んだ。  多分その顔があまりにも可愛かったからだろう。菜穂が自分のイチゴ味のかき氷をスプーンに掬い、それから「あ~ん」と柚子さんの前に差し出した。  おい、菜穂。いくら柚子さんが可愛くてお気に入りだからって、それはやっちゃダメだろ。  今すぐそのスプーンを引っ込めろと、目で訴えてみたけれど、菜穂はやめるどころかニヤリと笑みを浮かべた。  柚子さんは、そんな菜穂には気づかずに、少し戸惑いながらも遠慮がちに口を開く。    「ちょっと! ああもう、それきーちゃん先輩の!」 「うっわ、あめぇ。つか、着色料って感じの味じゃん」  けれど、なぜかそのかき氷を食べたのは、菜穂の隣に座っていた高岡さんだった。  柚子さんの口に入る前に、菜穂の手を掴み無理やり自分のほうへと向けた。それに自分で食べたくせに、感想は言いたい放題だ。  柚子さんはポカンとして口を開けたままでいる。 「高岡先輩、最悪なんですけど! きーちゃん先輩のかき氷だったのに! きーちゃん先輩に食べさせたかったのに!」  怒った菜穂が、氷の山にザクザクとスプーンを突き刺す。その様子を見て高岡さんは、謝ることもなく満足そうに笑った。  状況が少しずつ見えてきた柚子さんが、開けたままにしていた口を慌てて閉じた。  その様子を俺に見られていたことに気づいて、恥ずかしさからか菜穂と同じように氷の山にスプーンを突き刺している。  それからどうしてそうなったのかは分からないけれど、このタイミングで良樹が「俺にも食べさせてよ」と身を乗り出した。  菜穂が仕方ないなあと反応する。けれど高岡さんが菜穂からスプーンを奪い、氷を掬うと良樹の口に突っ込んだ。 「これでいいだろ?」 「高岡さん、ひどいっすよ」 「私のかき氷なのに……!」  高岡さんの勝手な行動に、菜穂がさらに拗ねる。せっかく良樹に食べさせてあげられるチャンスだったのにね。  自分が柚子さんにちょっかいかけるからだよと思いながら、菜穂に向かってべーっと舌を出すと、菜穂に睨まれた。  その状況をどうにかしようとしてか、柚子さんが菜穂にスプーンを差し出した。そこには柚子さんのレモン味のかき氷が乗っている。  まさか、菜穂に食べさせる気?  「菜穂ちゃん、ほら。あ~ん」  ……最高に可愛い笑顔までセットだ。ずるい。俺だってしてもらえていないのにさ。  止めに入れるわけもないし、こんなことを考える自分の心の狭さに泣きたくなる。  以前に嫉妬してもらえるのは嬉しいと言われたけれど、それとこれとは違う。これはする必要のない嫉妬だ。  ひとりで静かに拗ねながら焼きそばを口に運んだ時、高岡さんが豪快に笑った。 「真宮ってばかだなぁ。何のために俺が菜穂ちゃんのあ~んを阻止したと思ってんだよ。彼氏が怒るぞ」

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