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夕side2
高岡さんの笑い声に驚いてみんなが手を止めていたから、余計にはっきりとその言葉が聞こえた。確かに今、「彼氏」と口にしたよね。
ぽとり、と柚子さんの手からスプーンが落ちた。
「……あ、」
誰と間違われたわけでもない。高岡さんは柚子さんに対してそう言ったし、柚子さんは彼氏と言われたことに否定もできない。
何を言っているんだよと冗談で返すよりも、高岡さんにバレてしまったかもしれないことで頭がいっぱいなのだろう。
小さく声を漏らし、震える手でシートの上にかき氷を置く。それから俯いて、何も言うことなくうずくまってしまった。
そんな柚子さんに何か声をかけられるわけでもなく、俺もその場を誤魔化すことができない。
高岡さんは、俺と柚子さんの関係を知っていたってこと? それとも、普段から仲が良いから、ふざけてそんなことを言ったの?
「えっと……、」
うまく言葉が出てこない。確かに俺の反応や言動があからさまな時もたくさんあった。
今だって菜穂に対して、明らかに嫉妬心をむき出しだったし。それでも、こんなにもあっさり言われるとは思ってもみなかった。
良樹は分からないけれど、菜穂や千夏、それに壱は何となく俺たちの関係を知っているようには思えた。でもそれを直接的に俺に聞くことはしなかったし、俺が話すまで待つよと、そう思ってくれているのだと勝手に解釈していた。
だから、様子を見ながら話そうと決めていたんだ。柚子さんと色々話してから、それから俺たちの関係をを伝えようって。
自分の両親に告げる時とは違う。今回は想定していないタイミングでバレてしまったし、こうなったのは柚子さんに対する俺の言動のせいだと思う。
柚子さんの守りたかったペースを、俺が一方的に壊してしまった。
高岡さんや菜穂たちだから、否定や軽蔑をされない自信はあるものの、少しでも気まずくなってしまえば、柚子さんは一気に心を閉ざしてしまうだろう。
こういう雰囲気になってしまったことと、それからゲイだと言わず、騙すかのようにして隣にいたことに罪悪感を抱くはずだ。
しんとしたこの静かな間が、またさらに空気を重くさせる。どうしたらいい? 俺は今、何を言うべき?
「えっと、俺たち……」
柚子さんは、まだ顔を上げない。俺も顔が上げられなくなって、中途半端に喋ったところで俯いてしまった。
「はぁ、お前らは本当にバカだし、可愛い奴らだな」
「……え?」
高岡さんがわりと大きめの声でそんなことを言い、さっきみたいに豪快に笑った。どういうことだ? と考えていると、「そういうのいらないんだって」と言いながら、俺の頭を叩いた。
それから俺よりは弱い力で、柚子さんの頭を叩く。それに驚いて反射的に顔を上げた柚子さんは、今にも泣き出しそうな表情をしていた。
「もうさぁ、隠さなくて良いんじゃない? 俺わりと前から知ってたよ。多分、菜穂ちゃんたちも分かってるよね。いや、多分じゃあなくて、絶対にね」
そうだろ? と、高岡さんが菜穂たちに問いかけると、みんなも小さく頷いた。やっぱり知っていたんだ。
「確かに言い出しにくいよな。それは俺も分かるよ。周りにだって男同士のカップルはいないし、そりゃあ珍しいしさ。まぁまず軽蔑されたら嫌だなって、そういう考えが頭に浮かぶんだろうよ。俺は同性と付き合ってるわけじゃあないから、橘と真宮が考えてることなんて、はっきりとは分からないけど」
高岡さんが、俺たちふたりの目を交互に見つめながら、そう言葉を繋ぐ。
「軽蔑されたら、どうしよう。せっかく仲良くやれてるのに、嫌われたらどうしよう。ねぇ、真宮。お前はそんなふうに思ったの?」
柚子さんの目から涙がこぼれた。ぽたぽたと、シートの上に音を立てて落ちていく。
「ねぇ、真宮」
高岡さんが、震える柚子さんの手をそっと握った。
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