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夕side2
「橘」
「はい?」
「ちょっと話をしよう」
「……はい、」
高岡さんがシートに座り、自分の横に座るようにとシートをポンポンと叩く。少し気まずさを感じながら高岡さんの隣に座った。
「いきなりごめんな。でも言わなきゃいつまで経っても黙ってるんだろうなぁって思ってさ」
高岡さんが、少し困ったような顔で笑う。
「タイミング的に良かったのかは分からないけどさ、一対一で言われるよりこのほうが真宮にとったら良いのかなって。俺がうまく伝えられなくても橘もいるし、菜穂ちゃんとかああいう時の声かけが上手なイメージがあったんだよね。あの子、嘘つけないじゃん」
「俺もタイミング分からなかったので、途中パニックになりましたけど、でも結果的に良かったし、今はホッとしています」
「良かった。正直、俺ひとりだったらうまく伝えられなかった時に、真宮のこと傷つけてしまうんじゃあないかって、ずっと怖かったんだよね。俺も、自信なかったからさ」
高岡さんの弱音に少しだけ驚いた。いつも堂々としているし、頼りがいのある人だけれど、こうして不安を抱えていたんだ。
かなり驚きはしたけれど、良いタイミングだったのかもしれない。柚子さんも俺も安心したのは事実だし、何より感謝している。
「真宮さぁ、遠くからここに来てるじゃん?」
「はい、」
「話すようになったばかりの頃は、遠いところから来て不安がたくさんあるのかなと、曇る顔を見る度に思ってたんだけど。遠くに来たせいでそんな顔をしてるんじゃあないんだろうなって、一緒に過ごしていくうちに何となくそう感じるようになったんだよね」
橘もそう思うだろ? と、高岡さんが俺を見つめる。
「でも真宮は、自分のことあんまり話してくれないし。仲良くしていてもやっぱりどこかで数歩分後ろにいるし。かと言って気安く聞ける雰囲気でもないし、俺もずっとモヤモヤはしててさぁ」
ゴミ捨てに行こうかと、高岡さんが立ち上がった。その言葉に小さく頷き、俺も立ち上がる。持てる分だけのゴミを持つと、高岡さんの半歩分後ろを歩いた。
「真宮は、体調悪くてうずくまっているところを橘に助けてもらって仲良くなったって言っていたよ。突然橘とつるむようになって、菜穂ちゃんたちとも仲良くなって、すごい縁もあるんだなぁくらいにしか思っていなかったけど、何となくさ、真宮の雰囲気が変わったんだよね」
「雰囲気?」
「そう。好きな人ができた時って、何となくだけど感じるものがあるじゃん?」
高岡さんが揶揄うような表情で、分かるだろ? と笑う。
俺と付き合ってから表情が柔らかくなったし、笑顔も増えたけれど、改めてそう言われると恥ずかしい。
柚子さんがそうなら、俺もみんなにそう思われていたのかもしれない。夕って好きな人ができたのかな? と。
菜穂のことだって分かりやすいのだから、俺はもっとそうなんだろう。そして柚子さんも、高岡さんからしたら色んなことがバレバレだったのかもしれない。
「真宮は合コンにもたまに参加していたし、数回だけ女の子とデートもしていたけど、それ以外に誰が可愛いとかそういう話も一切なくてさ。好きな女優とかモデルとか、そういう好みもサッパリで。周りが盛り上がる中、ひとりだけそんな感じだったから、多分それもあって余計にずっと何かが引っかかったんだと思う」
柚子さんなりに、頑張ってきたことなのだろう。本当はしたくもない合コンにも参加して、デートもして。どんな気持ちで過ごしていたのかな。
「橘たちと出会うよりもっと前に、もしかして彼女できた? って思った時もあったけど、彼女できたの? って聞いたら、顔色悪くなってさぁ。違うよって言うもんだから、なんかもう頭ん中ぐるぐるしてきてさ」
きっと津森さんのことだと、話を聞いてそう思った。高岡さんのことを諦めてネットで出会いを探し、そして知り合った年上の男性だと、そんなこと高岡さんに言えるはずがない。
それは一体いつ頃の話なのかと、少しだけ気にはなった。津森さんとどのくらいの期間お付き合いをしていたのだろうか。
でもそこまで昔からというわけではないはずだから、付き合っていた期間は意外と短いのかもしれない。
ああ、過ぎたことだし、いちいち気にすべきではないことなのにな。
そんな俺を見て、何を考えているのか分かった様子で、高岡さんが笑い始めた。
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