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夕side2

「え? 何? 橘さぁ、もしかして相手が誰か知ってるの?」 「……たまたまバッタリ会ったことありまして、」 「あ、そうなんだ。お前さ、今、どれくらい付き合ってたんだろうって気になったんだろ?」 「高岡さん、心読めるんですか?」  そんなわけないと思いつつも、そう思ってしまうくらい的確に言うから、ついついそんなことを聞いてしまった。  高岡さんは呆れながらも、けらけらと笑う。少しだけバカにした感じが入っている。菜穂と良樹に対して笑う時みたいに。 「いや、真宮のことになると、橘ってめちゃくちゃ顔に出るから、何考えてるか分かるんだよ。詳しいことは分からないし、真宮のこと勝手に伝えるのはあれだけど、半年から一年くらい、みたいなざっくりとしたことしか分からないや」 「わ、思ったより長いですね」 「お前らなら余裕で超えていくだろ。まさか一年で終わらす気なんてないよな?」  ゴミを捨て終え手が自由になると、高岡さんは俺の肩を叩いた。バシバシと何度も叩かれて、地味に痛い。やめてくださいよと言うと、こんなことで拒否するなど、さらに強く叩かれた。 「まぁさ、橘とつるむようになってから、真宮の雰囲気がまた少し変わったんだよね。それからしばらくして、何となくピンクっぽかったその空気が完全にピンク色になったように思えて。ほらその、好きな人ができたら何となく分かるってやつが、あぁそういうことだったのか、って納得できたんだよね」  のんきに考えている場合ではないけれど、俺と付き合ったことを隠し通せていない柚子さんは、それらそれでかなり可愛い。  それくらい浮かれていたったことだよね。 「前にも似たようなものを感じて聞いた時に、顔が青ざめた理由は、真宮って男が好きだったからなのかなぁって、それで何となくね。女の子の話をしないのも、それが理由かって。そんで橘見てて、真宮に向けている好意も、友情とか尊敬とかとは違う好意だって分かったし」 「やっぱり俺の好意ってバレバレですよね」 「そりゃあもうやばいくらいにね。誰が見ても真宮のこと好きですオーラが出ているし、見つめる視線はこっちが恥ずかしくなるほど優しいからね。俺がお前の彼女ならその視線に溶けているだろうよ。真宮はよく溶けずに耐えてるわ」  公認になったこれからはどれだけ見せつけられるんだろうと、高岡さんが自分の肩を抱き、「うう〜」と言いながらさする。  安定の揶揄いに少しイラッとしながら睨みつけると、「てへっ」と舌を出してふざけた顔をした。  高岡さんだから許されるけれど、他の人にされたら殴っているかもしれない。あとそのふざけ表情に救われることが多いとはいえ、高岡さんの印象的にその顔は似合わない。  と言いたい気持ちを堪え黙っていると、「でもさ、俺は少し悔しいんだ」と、高岡さんが急に真面目な顔でそんなことを言い始めた。  さっきまでの雰囲気とのギャップに困惑する。ふざけていたのに、何を言い出すんだ? 「え? 急にどうしたんですか。何が悔しいんです?」  高岡さんは「ちょっと恥ずかしいんだけどさ」と前置きし、それから俺の肘を自分の肘で突いた。 「休んでる真宮の見舞い行った時にさ、お前に会ったじゃん。俺も連れて行って、みたいなことお前が言ってきた時。その時に俺、橘に真宮と喧嘩したのかって聞いたじゃん」 「……はい、」 「前にも言ったとは思うけど、羨ましいなって思ったんだよね。大学に来てひとりぼっちだった真宮と真っ先に仲良くなったのも、その後も一番仲が良いのも俺だったのに、俺とは喧嘩したことは一度だってないよ」 「いや、柚子さんは喧嘩って言ったかもしれないですけど、実は喧嘩ってわけでもなくて。……俺たちも喧嘩はしたことないです。というかそもそも、柚子さんも高岡さんも、お互いに怒ることがあるんですか?」

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