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夕side2

 走って追いつき、高岡さんの腕を掴むも、あっさり振りほどかれて逃げられる。  くそ、砂に埋もれてうまく走れない。マジックテープで止めるタイプのサンダルにするべきだった。踵が固定されていないこのサンダルで、高岡さんに追いつけるはずがない。  それでも必死に追いかけていると、高岡さんが後ろを走る俺にめがけて砂を蹴り上げた。 「んなわけねぇだろ。冗談だよ冗談。橘のばーか」 「は? 笑えないんですけど!」 「だいたい俺と身長の変わらない真宮を抱き枕にするか。別に可愛くもねぇのに」 「はぁ!?」  わざと挑発してくる高岡さんに、そっちがその気ならこっちだってやってやると、程よい大きさの貝殻を拾って高岡さんの焼けた背中に投げつけた。 「いってぇ!」  肩甲骨のあたりに当たったらしく、高岡さんが足を止め背中を押さえる。  痛がっている高岡さんに仕返しだと言い、べーっと舌を出して見せ、それから追い抜かした。 「橘、てめぇ!」  泳いでいる柚子さんたちのところへ全力で走る俺の背中には、大量の砂が投げられる。貝殻を探す暇があったら砂をかけるってことか。 「橘、待てって」 「ばーか」 「先輩に向かってばかだと!? 良い度胸してんなぁ!」  怒鳴り声を上げつつも、やっぱり高岡さんは笑っている。その笑い声につられて俺まで笑えてきた。  波が膝下くらいのところで遊ぶ柚子さんたちまで、残り数メートルの距離まで来た時、俺に気づいて手を振ってくれた。  それに対して振り返した瞬間、「追いついた!」と叫んだ高岡さんに飛びつかれた。  と同時に、ふたりで海の中へとダイブする。パシャーンとすごい音がしたし、浅めなところでされたせいで、砂や珊瑚が背中が当たって痛い。  高岡さんを睨むと、高岡さんまでその痛みをくらっていた。 「……ほ、けほっ、」  少しだけ海水を飲んでしまい咳き込むと、柚子さんが駆けつけ、心配そうに俺の背中をさすってくれた。 「大丈夫? 何をそんなに慌てて……。どうしたの?」 「高岡さんがいじめてくるから」  それだけ言って柚子さんの後ろに隠れると、高岡さんが海水をかけてきた。 「橘が俺に貝殻投げてきたんだろ。その仕返しだよ」  柚子さんの顔に海水がかかる。ぎゃっ! 塩っぱい! と柚子さんが叫んだ。 「いや、その前の高岡さんの発言を無かったことにしないでくださいよ。あと高岡さんが砂かけてきたんでしょ」  俺は柚子さんの後ろに隠れるのをやめ、高岡さんに海水をかけ返した。顔にかけられた仕返しに、柚子さんも一緒になって高岡さんに水をかける。 「真宮を使うなんて卑怯だぞ」 「俺は高岡が俺の顔に水かけたから仕返ししているだけだよ」 「これだからカップルは……! くそ! くらえっ」  高岡さんが足を水面に思いっきり叩きつけ、水しぶきが広く高く上がり、近くでボール遊びをしていた菜穂たちにまでそれがかかった。  そのせいで水を飲んでしまったと、菜穂が高岡さんにキレると、ざまぁみろと高岡さんはまた笑う。  すると良樹がボールを手に取り、それを高岡さんに投げつけた。 「ちょ、良樹お前ひどいそれ」 「俺のアレを小さいって言った仕返しですよ」 「えっ、ちょっと待って。それ今返すの? 引きずりすぎでしょ」  菜穂と良樹が俺たちの味方につき、高岡さんが一人取り残される。 「おい、それは人数的におかしいだろ。壱と千夏ちゃんはこっち」  そう言ってちょっと離れたとこから俺たちを見ているふたりを高岡さんが呼んだ。  けれど、「今は魚探してるから忙しい」と即断られ、結局高岡さんはひとりのまま。自業自得だ。  菜穂が水をかけ始めたのを合図に、みんなで高岡さんめがけて水をかける。高岡さんは少し深めのところへ向かって走り、そこから泳いで逃げようとするも、良樹がその足を引っ張り、それからなぜかお姫様だっこで高岡さんを捕まえた。   「早く下ろせばか、何で俺が良樹にこんなことされなきゃいけないんだよ」 「いや大丈夫っすよ。水ん中って軽いんで」 「ばっか、そう言う問題じゃあなくて。お前、ふざけんな! これ、恥ずかしいだろうが!」  ジタバタと暴れる高岡さんを、良樹がまあまあと宥める。  さすがにそれは俺も意味が分からないと思って呆れて見ていると、菜穂まで柚子さんをお姫様だっこし始めた。 「水の中だから軽い!」 「いやだから、そう言う問題じゃあなくて。柚子さんを今すぐ下ろして」 「菜穂ちゃん……、ごめん、下ろして、無理……。恥ずかしい……」 「きーちゃん先輩、軽いから大丈夫ですよ」 「だからそうじゃあなくてさ! ああもう、良樹も菜穂も何がしたいの」 「「え?お姫様だっこ」」 「ハモらなくていいから!」  結局、魚探しを終えたふたりも加わり、わけの分からないその時間がしばらく続いた。  すっかり拗ねてしまった高岡さんに命令され、なぜか俺が全員分のかき氷を奢らされた。

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