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夕side2

 夕方まで思いきり遊び、あっという間に帰宅の時間になったけれど、もう少しここにいたいからと、俺と柚子さんはふたりで残ることにした。  いくら夏だとはいえ、夕方になればやはり肌寒い。  それでもまだ海で泳ぐ人もぽつぽついるし、砂浜で貝殻を拾う人たちもいるから、俺と柚子さんは人目のない岩場のほうまで歩き、そこで肩を寄せて座った。 「柚子さん、焼けたね」 「橘くんも、かなり焼けてる」  羽織っていたカーディガンを捲り、お互いに焼けた肌を見せ合う。  俺は皮が剥けることはないけれど、すぐに赤くなるから、明日になれば顔も腕も足も、真っ赤になっているんだろうな。 「柚子さん、」 「ん?」  日焼けして赤くなった柚子さんの頬に触れると、くすぐったいと笑って目を閉じた。その一瞬の間にこっそりキスをする。  驚いた顔をして柚子さんが固まるけれど、すぐにふわりと可愛らしい笑顔になった。日に照らされて輝いて見える。  風に吹かれてなびく髪が、海水のせいで少しごわついているけれど、それすらも可愛い。 「柚子さん、可愛いね」 「はいはい」  今までよりも、もっとずっと笑顔が柔らかくなった。 「ねぇ、橘くん」 「なに?」 「ちょっとだけ、話をしても良いかな。今日みんなのおかげで強くなれたから、話せる気がするんだ」  俺は柚子さんの肩に手を回し、自分のほうへと抱き寄せた。 「いいよ。何でも聞く」  寄りかかる柚子さんに、俺も身体を預ける。 「俺ね、男の人が好きだと分かったのは小学五年生の時だった。誰にも言っていないのにバレちゃってさ。いじめられて居場所がなくなってしまった。……父さんと母さんが味方でいてくれたことが唯一の救いだった」 「……うん、」 「中学は転校して、そこでは隠せたけれど、それでもやっぱり居場所はなくて、いつもひとりだった」 「うん、」  柚子さんの手に自分のを重ね、恋人繋ぎをする。柚子さんが「橘くんの手、相変わらず温かいね」と微笑んだ。 「高校では、うまくやろうって思って、俺ね、彼女まで作ったの。今となっては彼女に対して失礼だったと分かるけれど、当時の俺は自分のことしか考えられなかったし、やっぱりダメだった。彼女とキスもできなかったんだよね。別れた後にホモだって噂が流れてさ。……それ以降はほら、映画館で会った森岡とかにね、本当に色んなことを言われてきたんだ」 「……うん、」  柚子さんの声の輪郭が揺れているのが分かる。泣きそうになるのを必死に堪えている感じ。泣いても良いよとの想いを込めて、そっと肩をさすった。 「だから大学はね、遠く離れたところを選んだの。俺のことを知らない人たちの中で、生活したかった。新たな気持ちでスタートしたかったんだ」  柚子さんがもう片方の手で目元を押さえた。ふと見ると頬に涙が伝っていて、泣いているのが分かる。 「高岡が話しかけてきてくれて、この大学に居場所ができた。それを守りたくて、男が好きだとバレないようになんとか頑張ってきた。もしかしたらね、高岡はなんとなく分かっていたのかもしれないけれど。それでもちゃんと居場所を作ることはできた。今までずっと高岡には言っていなかったし、だからある意味では本当の居場所ではなかったのかもしれないけれど、それでも、形だけでもちゃんと居場所はできんだ……」 「うん、」   本当は俺が涙を拭ってあげたいけれど、そうすると話が途切れそうだから、柚子さんの話を最後まで聞くためにも、気づかない振りをした。  柚子さんの言葉や想いを、しっかり聞かなければ。

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