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夕side2
「津森さんに出会って、他人からも特別な愛情をもらえることに喜びを感じることもできた。結局それはは崩れてしまったけれど、それでもそのおかげで橘くんに出会えて、比にならないほどの大きな愛情と幸せをもらえた」
「うん……」
「菜穂ちゃんたちとも仲良くなれて、可愛い後輩がたくさんできた。みんなに囲まれて毎日を過ごして。……それだけでもね、もう十分だったんだ。それだけで生きていて良かったと思えるくらいに嬉しかったの……」
涙が大粒になって溢れ出し、重ねていた手にまで落ちた。柚子さんの目元を触る回数が増え、鼻声になっている。
俺は肩に置いていた手を頭へと動かし、ゆっくりで良いよと、そっと撫でた。
「……こんなふうにね、受け入れてもらえるとは思わなかった。血の繋がりのない他人に、高岡はともかく、菜穂ちゃんたちとはまだ出会って半年くらいしか経っていないのに。ああ、ここが本当の俺の居場所になったんだと思うと、胸がね、いっぱいになる」
「……うん、」
「橘くん、ありがとうね。本当に、ありがとう。橘くんと出会ってから、本当にたくさんのことが変わった。いい方向に、いっぱい変わったの。ありがとうって、それ以上の言葉が何なのか分からないから、それしか言えないけれど。たくさんたくさん、ありがとうって言いたい」
嬉しい言葉を伝えてもらえるのはありがたいけれど、そうじゃあないよ。確かに俺との出会いがきっかけにはなったのかもしれないけれど、でも結局はきっかけ程度のことだよ。俺が変えたわけじゃあない。
「ねぇ、柚子さん、」
俺は柚子さんを自分のほうへと向かせ、それから両手で頬を包み込んだ。
風で冷えた柚子さんの頬をじんわり温めていくと、境界線がなくなっていくような気がする。涙のあとを、親指の腹で優しくなぞった。
残った涙が睫毛にたまり、夕日に照らされてキラキラと輝いている。
「柚子さんだからだよ。俺のおかげじゃあない。お礼を言われることなんて俺は何もしていないよ。みんなが柚子さんを大好きで、みんなが柚子さんのことを大切に思っているだけ。それも全部、柚子だからなんだよ」
「……ん、」
「俺のほうこそ、ありがとう。柚子さんと出会えたことに感謝しているよ。出会いはどうであれ、今、柚子さんとこうしていられることが俺はすごく嬉しい。あの日柚子さんを見つけて、声をかけて、本当に良かったって思うよ」
「う……ん、あり、がと……」
頬を包み込んだ手に、新たな涙が溢れ伝っていく。柚子さんの顔はくしゃくしゃで、ぼろぼろと流れ出る涙が止まらない。
俺も涙が止まらず、視界がぼやけてきた。鼻水まで出てしまいそうだ。
誰かをこんなにも好きになって、大切だと思えることは、本当に幸せなことだと思う。それに、柚子さんも俺と同じ気持ちでいてくれるのなら、こんなに嬉しいことはない。
好き。柚子さんのことが大好きだよ。
「柚子さん」
「……うん、」
「好き」
「うん、」
「俺ね、何があっても絶対に柚子さんのこと離さないから。これから先もずっと、柚子さんのことが大好きだよ。毎日好きを重ねていきたいし、柚子さんが幸せを感じる瞬間に、俺が隣にいられたらと思う。だからね、柚子さんも俺のことをずっと好きでいて」
「……うん。俺も、橘くんのこと絶対に離さないよ」
おでこをコツンとくっつけると、プロポーズみたいだと、柚子さんが笑った。
「ぼろぼろ泣いて、全然かっこよくないけどね」
「ううん、かっこいいよ。橘くんは、いつも温かくて、優しくて、かっこいい」
「ふはっ、柚子さんは、可愛い」
「いつもそればっかりじゃん……」
「それでも言い足りないくらい。柚子さんのこと、毎秒可愛いって思っているよ」
「やめてよ、恥ずかしい……、顔見ないで」
「だからそれも可愛いんだって」
可愛いも、大好きも、柚子さんに何回伝えても足りない。昨日よりも今日、そしてきっと今日より明日、柚子さんへの好きを重ねていくんだ。
「ねぇ、思いっきり好きだって、叫んでも良い?」
「……ダメ、恥ずかしいから」
「じゃあさ、叫ばないように、柚子さんが俺の口を塞いでよ」
「……っ、やだ。それも恥ずかしい」
「だったら、俺からするもんね」
泣いて腫れた瞼にまずはそっとキスをして、それから照れて恥ずかしがる柚子さんの、その可愛い唇に、何度も何度もキスをした。
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