63 / 516

第63話

「まさか…ヤらないよな?」 智は蔑むような目で俺を見下ろす。 「………………」無言の抵抗の俺。 「もう、無理だからなっ。凛にも言われただろう? …別々に寝るぞ。」 「待って、待ってくれっ! わかった!ヤらないっ! 頼む…手だけ繋いで寝てほしい…一緒にいてくれ、頼むから。」 捨てられた子犬のようにウルウルと涙目で智を見上げると、智はふぅーっと大きく息を吐き 「お前、大型駄犬だな。耳と尻尾が垂れてるぞ。 吹き出しで『きゅーん、きゅーん』って鳴き声が入りそうだ。 いいか、絶対手を繋ぐだけだぞ。 それ破ったら…」 「はいっ!わかりました、智様っ! 仰せのままにっ!」 なんとか一緒にいるお許しが出てホッとした俺は、溜まっていた仕事をザッと片付け、念入りに風呂に入ってから智の部屋へ向かう。 智は、既にベッドにうつ伏せに横たわっていた。 ああ、そそられる…でも、あれやこれやしたら智の怒りを買うのは必定。 今日は我慢だ、我慢。 しかし、本人の自覚のない艶かしい姿といい匂いが俺を誘う。 俺は横にするりと潜り込み手をそっと繋ぐと、大人の余裕をかまして「おやすみ」と額にキスをして、明日の指輪の購入と その後のイチャイチャを妄想して、必死で己れの欲望に耐えた。

ともだちにシェアしよう!