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第85話
「次は俺にも。」
翔が自分の指輪を取って俺の前に差し出してきた。
それを受け取り、翔の左手の薬指にはめていく。
指の根元に向かって進むごとに、この男が自分のものだという実感が湧いてきた。
たかが身を飾るアクセサリーの一つなのに、結婚指輪って特別な意味を持つのだなぁと、その輝きに気圧されながら、沸々と湧いてくる幸せな気分に浸っていた。
俺は自分の左手を右手でそっと包み込んだ。
その冷たい感触が次第に体温に馴染んでくる。
その手を翔が両手で包み込んできた。
「智……」「翔……」
二人の顔が近付いていき、もう少しで唇が触れる…その瞬間
えへんえへん という咳払いとなんとも気まずそうな松本氏が
「仲のよろしいところお邪魔して申し訳ございませんが…
フィッティングの具合はいかがでございますか?」
俺は思わず翔を突き飛ばした。
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