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第96話

そうだ…泣いてる場合じゃない。 まず、この口の中のモノなんとかしなきゃ。 俺は、歯が顎が砕けるかと思うくらいに、渾身の力を込めて、それに噛み付いた。 うぎゃーーーーーーーっ 口元を叩かれ頭を滅茶苦茶に押されるが、歯を立てたまま離さない。 口の中に血の味が広がり、ようやく俺はそれを解放し、横に向かって唾を吐き捨てた。 噛み付かれた男はベッドから転げ落ち、前を押さえたまま蹲り全身を震わせている。 「このアマっ」 さっきまで胸を弄っていた男に、二、三発 平手をかまされた。 思い切り張り倒され、脳味噌がグラグラ揺れ、視界がぼやけてくる。 俺の口の中も切れたのか、また血の味が広がった。 「かわいがってりゃいい気になりやがって…もう手加減しねーぞ。」 そいつが俺の下着を引き下ろし跨った瞬間 ジリジリジリジリジリ 部屋に非常ベルが鳴り響いた。 「ん?なんだ?」 部屋の外から複数の足音と、それぞれのドアをノックする音が近付いてくる。 「火事ですっ!火事っ!早く避難して下さいっ! 火の手が回っています!急いで~~!」 バン、バタンとドアを開ける音と、我先に逃げようとする人の悲鳴と足音が聞こえてくる。

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