110 / 516
第110話
俺の反応に満足したのか、翔は少し意地悪な顔をして、
「なぁ、智。あいつらにどこ触られた?」
ビクリと身体が硬直する。全身の血の気が引いた。
思い出したくない、忘れたい。
どうしてそんなことを聞くんだ?
俺のこと…許せない?
やっぱり汚いと思ってるのか…?
恐怖と悲しみと困惑とが混じり合ってふるふる震えながら、瞬きもせず目を見開いて翔を見た。
涙が溢れてきて視界が霞んでいく。
翔が慌てて、零れ落ちた涙を親指で拭い、そっと手の平を頬に添えた。
体温を失った身体に、翔が触れている頬からじんわりと温もりが戻っていく。
「あっ、違うんだ!ごめん!泣かすつもりはなかったのに…ごめん…
嫉妬だよ!嫉妬!
俺の智に、俺以外のヤツが触ったかと思うと、守れなかった俺自身に腹が立って。
そこ、上書きしてマーキングしてやるって約束したじゃん。
だから…
思い出させてごめん!」
少しの沈黙の後、俺はぶるっと身震いすると、大きく息を吐いて言葉を絞り出した。
「あの日、会社を出てすぐにあいつらに声を掛けられたんだ。
『相沢智さんですよね』って。
油断した隙に首に手刀打たれて気を失って…
気が付いたら、あそこで両手両足縛られてて。
ともだちにシェアしよう!