147 / 516

第147話

「…ごめん、翔。本当に今日は無理だ…俺から誘っといてごめん。 ごめん、わかってくれ…怖いんだ…」 目を伏せてふるふると震えながら智が謝ってくる。 ひょっとして、今の痛みでまた嫌な思い出がぶり返してるんじゃないか…マズい… なにやってんだ、俺は… もう、これ以上智を追い詰めることはできない。 昔のことを話すだけでも、勇気がいったことだろう。 俺の欲望のみの考えなしの行為のせいで、大切な恋人の心を傷付けてしまった。 「…俺のせいだ…智、ごめんな。 なあ、抱きしめられるのは怖くないか? 俺の匂いで、俺の温もりで、お前を満たして、なにも怖いものがないようにしてやるから、一緒に寝よう?」 こくんと頷いて哀しげな目でじっと見つめる智をそっと横たえた。 「…翔…ごめんなさい…」 震える小さな声が胸を打つ。 俺は智の首筋に左手を差し込むと、そのまま右手でそっと背中を引き寄せて、まだ震えている身体をぴったりと密着させた。 お互いの心臓の音が共鳴し合う。 「智、愛してる、心から愛してるよ。」 耳元でささやくと、「俺も…愛しています…」 智の声が身体中の細胞に染み渡っていく。 いつもの獣のような交わりと挿入のない、穏やかな触れ合いは、体温と呼吸を通してじわじわと身体を侵食して、心も身体も落ち着かせていく。 「ごめんなさい、翔、ごめんなさい…」 謝り続ける智の背中を撫でながら、俺は呪文のようにささやき続ける。 「智、ごめんな…愛してる、愛してるよ…」 そうして二人きりの静かな夜は更けていった。

ともだちにシェアしよう!