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第154話

仕事の電話だ… 一旦切れては、出るまで何度でも鳴り続ける。 ちっ、緊急か。 高揚していた気分が冷めていく。 「智、ごめん、仕事の電話だ。ちょっと待ってて。」 名残惜しく ちゅっと大きなリップ音を立てておでこにキスを残し、溜息をつきながら部屋を出た。 「…はい、五十嵐です。」 「うっわー、超不機嫌!五十嵐君、こんばんは。 それと、おめでとう!! 今、お邪魔だったかな?」 「…わかってるんなら、電話してこないで下さい。 お陰で、嫁とのイチャラブタイムが台無しですよっ。」 電話の向こうで大笑いしてるのが聞こえる。 「くっ、くっ、くっ、あーー、ごめん、ごめん。 緊急だったのでね、ごめんねー。 実は来月のね…」 一方的に日程を伝えると 「じゃあ、よろしく!さよーならー!!」 と電話を切られた。こいつは、いつもそうだ。 世間一般では『こいつ』なんて言えない立場の人だが、今の俺にとっては『クソ馬鹿野郎』だ。 あんたのことだよ、仲代総理。 一際大きな溜息をつきながら、携帯の日程表に打ち込み、スケジュール帳にも細かく記入して、智の待つ部屋へと戻る。 携帯の電源は速攻落とした。 「智、ごめん、待たせたな…」 智の温もりで一杯の暖かな布団に潜り込んで、キスをしようと顔を見た。 ん?智?まさか…うそだ…寝てる… すーすーと穏やかな寝息を立てる愛しい男は、肩を揺すっても起きる気配もない。 俺はガックリと力が抜け、青筋を立てて天を向く愚息を握りしめて天井を仰いだ。

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