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第168話

凛を送って行き、慌てて電車に乗り込むといつもの日常が戻ってきた。 仕事モードの俺に切り替わっていく。 社員証のバーコードを通すと、いの一番に課長の元へと馳せ参じる。 「おはようございます。 重ね重ねご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。 そして、色々とありがとうございました! 遅れた分取り戻しますので、よろしくお願い致しますっ。」 「おー、もう大丈夫か? 無理せず定時に帰るように。」 課長は俺だけに聞こえるように 「今度は三人で遊びにおいで。」 と、ぱちんとウィンクをしたのだった。 パソコンを起動させると、溜まりに溜まっている資料を片付けていく。 「おっはよー!おたふくちゃん、 気分はどうかな?愛しの彼女に介抱されて腑抜けになったか?」 馴れ馴れしく肩を抱いてくる同期の秋山の手をばちーんと音が出るほど叩いて、 「黙ってろ。『おたふくちゃん』は止めてくれ。」 と顔も見ずに応対する。 「痛いなぁ。なんだよー。結婚したら、益々お高くなりやがってー。つまんねぇのー。」 「俺は忙しいんだ。お前を構ってる暇なんかないんだよ。 仕事しろ、仕事。」 「ふーん、結婚相手に本気(マジ)惚れって、やっぱ本当なんだ…」 「うるさい、自分の席に戻れよっ、邪魔すんな。」 しっしっと秋山を追い払うと、俺はこれ以上ない程 集中して、午前中に粗方の仕事をこなした。

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