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第173話
side:秋山 晃星
弟さんが亡くなって長期有休を取ったと思ったら、その休み明けに結婚指輪をしてるだなんて。
で、すぐまた『おたふく風邪』で休んで、今日久し振りに話したのに素っ気なくあしらわれた。
薬指のリングが眩しかった。
『相沢さん、奥さんにメロメロらしいの。』
『えー、私狙ってたのにぃ。』
『私だってぇ。もうショックだわ。』
くっそうるせぇ女ども。
俺だって狙ってたんだよ。悪かったな。
同期入社で、すっげー美人な上に性格もよくって仕事もできる。
ライバル視してた心が、いつしか惹かれるようになって、ずっとあいつのことだけ見ていた。
何人かに告白されたけど
「好きなやついるから」って、全部跳ね除けてきた。
男なのにとか、気持ち悪いとか、そんな考えはどうでもよかった。
これが『好き』ってことなんだと自覚した時にはもう、あいつのことが頭から離れなくなっていた。
どんな女なんだろう。
確かめなければ、諦めることもできない。
あ、定時であいつが帰っていく。
そうだ、ついて行って偶然を装って見てやろう。
「課長、今日は一件寄ってそのまま直帰しますっ!」
「秋山君…『人の恋路を邪魔するものは馬に蹴られてなんとやら…』だよ。
程々にしとかないと、後で痛い目に遭うからね。」
「うっ、課長…俺は別にそんなつもりでは…
あっ、とにかくっ、失礼しますっ!」
なんで?課長、気付いてる?
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