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第177話
キッチンから出てきた彼が、コーヒーをテーブルに置いた。
「どうぞ。」
ソファーに座る相沢の後ろに立ち、背もたれ越しに抱きかかえるようにすると、
「俺もこいつを命がけで本気で愛している。
仕事もプライベートも一生懸命なこいつの邪魔はしないでほしい。
非難するなら俺だけにしてくれませんか。」
そして相沢から離れてひと言、
「お願いします。」
と深々と頭を下げた。
「あ…俺は…そんなつもりはないから。」
負けた。完敗だ…
圧倒されてそれだけ言うのがやっとで…
俺の入社以来の恋が終わった瞬間だった。
「おじさん、それのんだらかえってね。
ふたりのじゃましないで。」
突然、あの女の子の声がした。
「凛、大人の話だ。あっち行ってろ。」
相沢が言うと、
「だって。くぎさしとかないと。」
ん?子供だよな?意味わかって言ってるのか?
「大丈夫だから、部屋に行ってろ。」
「はーい。」
二人の真剣な思いがひしひしと伝わってきて太刀打ちできず、おまけにチビちゃんにダメ押しされて、打ちひしがれた気分で、少し冷めたコーヒーを一気に飲み干し、
「大丈夫だ。誰にも言わないから。
相沢…おめでとう。彼氏さんも相沢を幸せにしてやってくれ。」
それだけ言って玄関に向かった。
「秋山、ありがとな。」
ほっとしたような顔の相沢と、相沢の腰に手を回した彼氏とに見送られ、敗北感丸出しの俺はエレベーターに乗り込むと脱力感で座り込んだ。
課長…知ってたのか。
この思いを一人で抱えたくない俺は、同僚の峰を呼び出すべく携帯をタップした。
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