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第206話
side:翔
本来なら休みなのに、断れない急な予約が入った。
「ランチで簡単なものでいいよぉー。
五十嵐くーん、お願ーーい。」
はっ、簡単ってどうだよ、簡単って。
ぶつぶつ独り言を言いながら支度をしてお客様を待つ。
「いらっしゃいませ。
先日も…ありがとうございました。
お待ちしておりました。どうぞ。」
「おー、五十嵐君、無理言ってすまないねぇ。
私一人だけどよろしくねー。」
おー、イケメンっぷりは相変わらずだなぁ。
おまけに いつも通りチャラくて軽い。
一見、こんなんで日本の未来は大丈夫なのか、と心配されたこともある。
ところがこれでもトップに君臨して以来、適材適所のブレーンを配置し、難問題を次々と解決して数々の実績を残し、かつてない高支持率を叩き出しているのだ。
国内のみならず対外的にも、『侮れない』とその名を馳せており、外交的にも各国と対等の立場にしてしまった。
ふわりとして、どこかつかみどころのない この人は、本当はとんでもない頭の切れる怖い存在。
普段は穏やかなオーラを纏うが、決める時はバシッと決める、冷酷非情なその手腕に誰も逆らえない、そんなカリスマのご来店だ。
「先日は、池森の身内が君の大切な伴侶に大変なことを仕出かして申し訳なかった。
私からもお詫びするよ。」
「いえ、あなたから詫びていただくことはなにも…それに、その件はもう後始末していただきましたから…手痛い目にあったのは、右腕を失ったあなたの方では。」
「知ってて目をつぶっていた私にも責任があるからね。本当に申し訳なかった。
後続が案外使える人間でね、私の方は問題ないよ。
で、もう、落ち着いたのかな?」
「ええ、お陰様で。でも、やはり…」
料理を勧めながら、相手をする。
今日『お一人で』というのは、俺に何か大事な話でも?
先日のことだけではないはず。
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