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第207話
『簡単で』というので本当に簡単なものを。
一口分ずつの惣菜が10種と具沢山の豚汁が付いたおにぎり膳。
どれも産直のこだわりの食材で、彼お好みの定食の一つだ。
『簡単』と言う時は、必ずこれをご所望なのだ。
「んー、いいねぇ、美味いねぇ。本当にここの食事はホッとするよ。身体中の細胞が生き返る気がする。」
「そう仰っていただけると、料理人冥利に尽きます。
今日…俺に何かお話でも?」
「うん、君にさ、結婚祝いをあげてなかっただろう?
それでね、君が一番喜ぶものを…と思ってさ。」
「一番喜ぶもの…ですか?」
「なんだと思う?前にも言ってたよねぇ。」
「え…あの…まさか。」
「そう、その『まさか』だよ。やっと根回しが終わってね、法案を通せる目処がたったんだ。
『同性婚の認可』だよ。
血の繋がらない親子兄弟姉妹も伴侶に迎えることができるように、一文も添えて。
今まで法律の壁でさ、どうしても親子兄弟に成らざるを得なかった人達が大勢いるだろ?
さすがに純粋な血族はちょっとね…。
これは説得できなかったよ。
これが通れば、叶わぬ想いを抱えて悩み苦しんでた人達にも一筋の光明が…。」
「えっ…本当ですか?」
「そう、、ホント、ホント。
ちょっと時間がかかったけどねー。
議論に議論を重ねて、各界に了承を得て…まあ、権力の傘を振るったとかもあるけどね。」
あ、君のためだけではないけど、とウインクして
「これ、確定だから。」と舌をぺろりと出した。
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