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*第263話
小京都と言われるこの街は、朝から観光客でごった返していた。
その波を掻い潜り、キャリーケースをコインロッカーに預けた俺達は、早速その会社へ向かった。
こじんまりした社屋ながらも、其処此処にセンスの良さが感じられて、さすが片岡課長が取ってきた契約先だと思わずにはいられなかった。
見るからに人の良さげな社長と、社員も感じの良い人ばかりで、 俺達二人を歓迎してくれた。
これから長い付き合いになるかと思うと、俺達に託してくれた課長の懐の大きさに頭が下がる。
これで、月に一度は顔を出すことになるだろう。
契約の書類も無事に交わし、昼食も一緒にと誘われたが、『お土地柄の社交辞令』と聞いていたし、時間も早いため丁重に辞し、次回の訪問日をその場で決めて、取り敢えず出張の目的を果たした。
「あー、終わった、終わった。
で、この契約のために、なんで二泊三日?
課長、何考えてんだろう。
なあ、もうこのまま帰ろうか。めんどくせーし。」
「えっ?せっかく来たのに…でも市場調査が…」
「そんなもん、テキトーに書いときゃいいんだよ。
でも…温泉と美味い料理は捨て難いな…
ま、ゆっくりさせてもらうとするか。」
飯食って移動したらチェックインの時間だな。
峰、飯食いに行くぞ。」
側から見たら、絶対俺は尻尾をブンブン振りまくる犬に見えただろう。
先導する秋山に遅れまいと、慌ててその後を追った。
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