303 / 516
第303話
少し怒気を含んだ言葉に違和感を感じた。
翔?
貪るように唇を奪われる。
息をするのも惜しむように。
ちゅくちゅくと音を立て、口の中で翔の舌が縦横無尽に暴れまわる。
言葉にならない苛立ちが舌から伝わってくる。
何?何に苛立ってるの?
翔、そんなに我慢してた?俺のこと、欲しくて堪らない?
いや、違う…そんなんじゃない。
戸惑いながら翔の激しいキスを受け止める。
やっと唇が離れて、お互いの息が上がっている。
身体を起こして翔が座り込む。
「翔…どうした?何かあった?」
「…なんでもない。」
「なんでもないって…隠し事はなしって決めただろ?それとも…俺には言えないことか?」
「違う…違うんだ。
結婚式の…式の打ち合わせの予約、今日の夕方にしてたのに、お前は人のことばっかりで、挙句に倒れる寸前まで仕事して…
土日もどこも出かけないなんて…お前、忘れてただろ?」
「…あ…ごめん…」
「俺にとっては、大切なことで…お前にとってもそうだと思ってたのに…
…予約、キャンセルしよう。」
「待てよ!どうしてそうなるんだよ。
忘れてたのは謝る。俺が悪い。
一つのことに夢中になると、他のことに目がいかなくなっちゃうから。
ごめん、翔のこと蔑ろにしてたとか、そんなのではないんだ。
だから、許してくれないか?ごめん。」
顔を覗き込むと、翔の目が潤んでいた。
ともだちにシェアしよう!