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第307話
「…智、智…」
頭を撫でられる感触に目を覚まし、ぼんやりとした頭で必死に記憶を辿る。確か翔に抱かれて…夕方、衣装を見に行くはず…
「…もう、時間?」
「ああ、起きれるか?何か食うか?」
「…いらない。シャワー浴びてくる。」
連れて行こうとする翔の手を払い、ふわふわする足取りでバスルームへ向かう。
身支度を整えてから、ご機嫌な凛の手を繋いで目的地へ。
「…智、怒ってるのか?」
「…別に、何にも。どうして?」
「いや、違うならいいんだ。」
怒っているんじゃない。
悲しいだけだ。
モノ扱いされた?俺の存在。
楽しいはずの衣装選びが苦痛に感じる。
元はと言えば、俺のせいだから。今更イヤだとは言えない。
俺が忘れてたせいで翔にもイヤな思いをさせて、あんな繋がり方になってしまった。
もやもやした気持ちのまま、橘さんの出迎えを受けた。
今日は、当日凛に付いてくれる女性のスタッフさんとも顔合わせをした。
「凛ちゃんのお世話をさせて頂きます、遠藤麻里と申します。『えんまり』と呼ばれてます。
どうぞ何でもご相談下さい。
凛ちゃん、よろしくね!」
「えんまりさん!よろしくおねがいしますっ!」
髪をシニヨンにまとめ、エクボの印象的な彼女の左手薬指には、シルバーの輝きが。
ああ、きっとこの人にも素敵な伴侶がいるんだな…
早速遠藤さんを従えて、凛は大はしゃぎで衣装選びに夢中だ。
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