308 / 516

第308話

「相沢様、ご主人はうちの橘が、凛ちゃんには遠藤が付いてますので、よかったら少しお話ししませんか?」 「…え、は、はい。」 遥さんに案内されて別室へ通される。 「はい、よろしかったらコーヒーどうぞ。」 「ありがとうございます…頂きます。」 「あの…差し出がましいかもしれませんが…ケンカでもされましたか?」 え…どうして? びっくりして目を見開いた俺に、遥さんが優しい眼差しで見つめたまま 「今日ね、お二人に微妙な距離感と違和感があるんです。 正確に言うと、あなたの方に。」 「どうしてわかるんですか?翔だって漠然としか気付いていないのに。」 「今まで数え切れないくらいのカップルを見てきましたから…経験上と申しますか… そんな心理状態の時に、衣装を選んだり、細かい打ち合わせなんてできないでしょう? もしよければ…この時間は、お客様対プランナーではなくて、嫁同士の井戸端会議とでもしませんか? 年の功で何かお伝えできることがあるかもしれませんよ?」 優しい言葉と微笑みに、堪えてきた感情が溢れて涙が出てきた。 「俺…実は、今日の打ち合わせを…忘れてたんです…」 俺は遥さんに、峰と秋山のこと、そのために増えた仕事とそのツケ、それと…翔に性欲処理のような扱いを受けてショックを受けていること…を洗いざらい話した。 なぜか、この人には心の内を全てわかってもらえる…そう、思えた。
15
いいね
0
萌えた
28
切ない
0
エロい
10
尊い
リアクションとは?
コメント

ともだちにシェアしよう!