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第308話
「相沢様、ご主人はうちの橘が、凛ちゃんには遠藤が付いてますので、よかったら少しお話ししませんか?」
「…え、は、はい。」
遥さんに案内されて別室へ通される。
「はい、よろしかったらコーヒーどうぞ。」
「ありがとうございます…頂きます。」
「あの…差し出がましいかもしれませんが…ケンカでもされましたか?」
え…どうして?
びっくりして目を見開いた俺に、遥さんが優しい眼差しで見つめたまま
「今日ね、お二人に微妙な距離感と違和感があるんです。
正確に言うと、あなたの方に。」
「どうしてわかるんですか?翔だって漠然としか気付いていないのに。」
「今まで数え切れないくらいのカップルを見てきましたから…経験上と申しますか…
そんな心理状態の時に、衣装を選んだり、細かい打ち合わせなんてできないでしょう?
もしよければ…この時間は、お客様対プランナーではなくて、嫁同士の井戸端会議とでもしませんか?
年の功で何かお伝えできることがあるかもしれませんよ?」
優しい言葉と微笑みに、堪えてきた感情が溢れて涙が出てきた。
「俺…実は、今日の打ち合わせを…忘れてたんです…」
俺は遥さんに、峰と秋山のこと、そのために増えた仕事とそのツケ、それと…翔に性欲処理のような扱いを受けてショックを受けていること…を洗いざらい話した。
なぜか、この人には心の内を全てわかってもらえる…そう、思えた。
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