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第309話

黙って俺の話を聞いていた遥さんは 「うちの隼人と一緒だね。 独占欲が強くて尊大で、意地っ張りで、ワガママで甘えん坊で。 でも、誰よりもあなたを信じて愛してくれてる。 これ、見てよ。」 そう言いながら、遥さんが左手のカフスを外して袖口を捲った。 そこには、赤く何かで擦ったような跡があった。 訝しげに目で問う俺に 「うちも夕べ、ちょっとしたことで食い違って、腹を立てた隼人に両手首縛られて、無理矢理されちゃったんだ。 こんな目に遭わされて男としてのプライドはボロボロになるし、悔しくって、頭にきて… 無理矢理って、やだよね。 嫌なんだけど、『そこまで想われてるのか』って逆に喜んでる自分がいて…そのアンバランスに心がついていかなくって… でも、隼人にしたら、それも愛情表現の一つだって言うんだよ。 私も男だからわかるけど、征服したい、虐めたい、堕としたい…っていうオスとしての本能というのか…それが時々爆発するみたいなんだよね。 逆に私も隼人のことを滅茶苦茶に啼かしてやりたいって、そうすることもあるし。 性癖の好みの問題もあるよね。 『ここまではオッケー、これ以上はノー』っていうラインを今まで散々話をしてるし、私達のようにもう年月が経ってると、阿吽の呼吸でわかるんだけど、あなた達はまだ若いし、付き合い始めたばかりでしょう? カラダだけじゃなくって、言葉のコミュニケーションも、とても大切だと思うよ。」 遥さんが愛おしそうに手首を撫でながら、ふうっと溜息をついた。

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