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第321話

ちゃぷんちゃぷん 温かな水に浮かんでいるような…この感じは…生まれる前の羊水の中だろうか… いや、たった一つ違うのは、誰かに後ろからしっかりと抱きしめられていること… ここは… ぼんやりした頭で目を少しずつ開くと… 「智…気が付いたか?」 翔に背中を抱き留められ二人で湯船に浸かっていた。 「ごめん、また無茶した。…キレイにしてやろうと思って…」 「…うん、ありがとう…大丈夫。重たかっただろう?ごめん。」 翔は俺の頬にキスをすると 「いつかお前のことを抱き殺すかもしれない。」 と真顔で呟いた。 「これぐらいでは死なないよ。」 振り向いて俺も真顔で返す。 なんだかおかしくなって二人で笑った。 ふと自分の身体中に散らばる無数の赤い花に気が付き、溜息をつきながら翔に抗議した。 「翔…明日、衣装選びに行くんだぞ? これ…マズくないか?こんなの試着の時に見られたら…」 「隼人さんも遥さんも、そんなこと気にしないよ。 『あー、仲直りしたんですね、よかったぁ』の一言で終わっちまうよ。」 くっくっと人ごとのように笑う翔の頬を両側から引っ張り、軽く睨みつける。 「俺、出るから」 バチャーッと派手な音を立てて立ち上がり、ワザと怒った声を出してドアを開ける。 鏡に映る自分を見て、ものすごい数の赤い斑点にぎょっとしたが、その顔は上気してほんのり赤く、目も潤み満足気に見えた。

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