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第360話

「…知ってる…」 「くっくっくっ…智。何拗ねてるんだ? ほら、ちゃんと顔見せて。」 顎をくいっと掴まれ、ふにふにと頬を軽く(つね)られて、笑われた。 その手を払って翔に背中を向ける。 「智…」 甘い声で名前を呼ばれ、背中から抱きしめられた。 ぞくり 脳天から足先まで、甘美な疼きが電流のように貫いた。 これは、何? 名前を呼ばれ抱きしめられただけで、俺の身体はこんなに反応している。 「智…愛してる…」 身体が…震え、鼓動がだんだん早くなってきた。 何か言わなくちゃいけないのに、声が出ない。 「智、震えてるよ…どうしたの?具合悪いのか?」 心配そうに覗き込む翔に、答える声は掠れていた。 「…大丈夫。お前に名前を呼ばれて抱きしめられただけで…」 翔が俺の身体を反転させて抱え込んだ。 俺の震えが治まるように、手の平で全身を撫でてくれる。 「翔…」 「ん?どうした?」 「…好きだ…好きなんだ。」 「ん。知ってるよ。でも、俺の『好き』のほうが強いと思うよ。 お前は俺のものだ。誰にも渡さない。 俺のそばにずっといてくれ。 こうやって抱き合って眠りについて目覚めたい。 智…俺の智…」

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