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第406話

『待ってる』 たったこの一言で疲れが吹き飛んだ。 愛おしい伴侶の待つ我が家へ早く帰りたい気持ちを抑え、この事件を解決せねばという妙な責任感に追い立てられていた。 どのくらいたったのだろう。五十嵐君は相沢さんを横抱きにして、三人が部屋から出てきた。 「申し訳ありませんでした。 では、お送りいたします。」 後部座席では、五十嵐君が真ん中に、右手に凛ちゃん、左手で相沢さんをしっかりと抱え、両側の二人も身体を寄せてぴったりとくっついていた。 五十嵐君は、まるで雛を守る親鳥のようで。 凛ちゃんはぐっすりと眠り、五十嵐君と相沢さんは時々目を合わせてはお互いの耳元で何か話をしていた。 車は夜の高速を滑るように抜け、見慣れた景色が広がってきて、やっと帰国できたのだと実感した。 まもなくマンションに着こうかという頃、五十嵐君が口を開いた。 「中谷さん…」 「はい、何でしょうか。」 「あなたに非はないですが、俺は、どんなことを言われてもあの二人を許すことはできません。 これだけはお伝えしておきます。 それと 明日は俺たちにとって、とても大切な日です。 二、三日は連絡しないで下さい。 お願い致します。」 「…承知致しました。 申し訳ありませんでした。 あなたのお怒りはごもっともです。 後日、連絡させていただきます。」

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