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第510話

目立たぬように静かに部屋を出ると 「あー!さとし!ただいまー! ね、だいじょうぶ?ごはんたべれる?」 「おかえり!凛。大丈夫だよ。楽しんできたか? 翔…お迎えありがとう。」 凛の頭を撫で、真っ赤な顔で俯いたまま翔に近付くと、甘えるようにそっと背中に頭を付ける。 小声でささやくように 「起こしてくれたらよかったのに。」 「いや、あんまり幸せそうに寝てるから、起こせなかった。 ごめんな、無理させて。」 「いや、今日のは俺が…」 「あーあー、またはじまったぁ!ばかばかばかっぷる。 でも…しあわせでいいよね!りん、うれしいよ。」 俺たちの手を握って、凛がふふふっと笑う。 こんな穏やかな何気ない日々が過ごせるなんて、誰が想像できただろう。 出会いは最悪だった。 でも、運命の歯車は回り出し、俺達は『家族ごっこ』を始めたが、今…本物の家族になった。 凛が成長して、いつかは俺達の元から巣立つ日が来るだろう。 送り出した後は翔と二人で暮らしていく。そう、じーさんになってもずっと。 いつの間にか翔に抱き留められ、おでこやこめかみにキスされていた。 「愛してると…ささやいてくれ。」 満面の笑顔になった翔が 「 智、愛してるよ。」 と何度も繰り返し耳元でささやき、心地よいその言葉の響きに、俺はうっとりと目を閉じた。 この時間が永遠に続くようにと祈りながら。 ーーLa Finーー

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