508 / 516
第510話
目立たぬように静かに部屋を出ると
「あー!さとし!ただいまー!
ね、だいじょうぶ?ごはんたべれる?」
「おかえり!凛。大丈夫だよ。楽しんできたか?
翔…お迎えありがとう。」
凛の頭を撫で、真っ赤な顔で俯いたまま翔に近付くと、甘えるようにそっと背中に頭を付ける。
小声でささやくように
「起こしてくれたらよかったのに。」
「いや、あんまり幸せそうに寝てるから、起こせなかった。
ごめんな、無理させて。」
「いや、今日のは俺が…」
「あーあー、またはじまったぁ!ばかばかばかっぷる。
でも…しあわせでいいよね!りん、うれしいよ。」
俺たちの手を握って、凛がふふふっと笑う。
こんな穏やかな何気ない日々が過ごせるなんて、誰が想像できただろう。
出会いは最悪だった。
でも、運命の歯車は回り出し、俺達は『家族ごっこ』を始めたが、今…本物の家族になった。
凛が成長して、いつかは俺達の元から巣立つ日が来るだろう。
送り出した後は翔と二人で暮らしていく。そう、じーさんになってもずっと。
いつの間にか翔に抱き留められ、おでこやこめかみにキスされていた。
「愛してると…ささやいてくれ。」
満面の笑顔になった翔が
「 智、愛してるよ。」
と何度も繰り返し耳元でささやき、心地よいその言葉の響きに、俺はうっとりと目を閉じた。
この時間が永遠に続くようにと祈りながら。
ーーLa Finーー
ともだちにシェアしよう!