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番外編:バレンタイン・キッス⑤

「ん…当たり前じゃん。普通に美味しいよ? ケーキの土台もクリームも。 だって最初っから仕上がってるんだもん。 俺がしたのは…『塗って乗せた』だけだもん。下手くそだけど。」 ちょっと不貞腐れ気味に呟くと、また ちゅっ と啄ばまれた。 いい子いい子と頭を撫でられ、時々文字通り甘いキスをしながら、一口大のケーキを乗せたフォークは翔と俺の口を交互に行き来する。 ご機嫌な翔と不機嫌な俺。 黙ってもぐもぐと口を動かしているうちに、いつの間にか不恰好なハートのケーキは跡形もなく消えていた。 「あー、ご馳走様。美味しかったよ、ありがとう、智。 …お礼に俺もケーキを作ろうか。」 何か含みのある言い方に『?』が頭に浮かんだが、翔ならケーキだってお手の物だろう…と深く考えなかった。 急にふわりと身体が宙に浮いて、ベッドへ連れて行かれた。 ん?ケーキができるまで寝てろってこと? つっと部屋から出ていった翔が、しばらくして戻ってきた。 手に何か持っている。 「…翔…まさか、それ…」 「うん!俺専用の『智のケーキ』を作るんだよ?楽しみだな…」 「いやいやいや、それはおかしいだろ? 食べ物を粗末にしちゃいけないだろ? さぁ、大人しく寝るぞ!」 俺のそんな言葉を無視して、見る間に俺を裸にひん剥いた翔は、自分のバスローブの紐で俺の手首を拘束してしまった。 「おい、翔!これ、解けよっ!いやだよっ、こんなのっ。」 「さーとーしぃ。大人しくしてよぉ。 クリーム…落ちちゃうよー…ん…いい子。かわいくデコレーションしてあげるから…」

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