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* * *
「ショウ」
「あ、おはよーマサ」
登校早々に声をかけてきた友人に返事を返せば、彼はそのまま翔次郎の隣に並ぶ。
この友人、一之宮 正人(いちのみや まさと)は、いつもとても距離が近い。
肩の触れる距離から離れないし、髪をいじってくるし、じっと目を見つめてくるし、なんならふざけて抱きしめてくることも多い。
同性でもここまでスキンシップをされたのは初めてで、もしかして俺の事……と思っていた。そう、昨日の翔次郎までは。
俺はもう昨日までの俺じゃない。脱・勘違い男子を果たして生まれ変わった俺なんだ!
そう謎に胸を張った翔次郎は「ちけーってのー」と笑って正人をいなす。
見よ、このスマートな対応。もう昨日のようにドギマギしたり変に顔を赤らめたりする勘違い行動はしないのさ!
正人の隣で勝手に自信満々の翔次郎に、正人はキョトンとした顔をするが、すぐにまたいつものように翔次郎へ距離を詰める。
それにまたドギマギしかけた翔次郎だったが、元々距離感が近いヤツなんだなと納得してまたへらへら笑った。
そんな距離感のまま放課後になり、部活もない翔次郎は正人とダラダラ教室で過ごす。
そしていつの間にか正人と二人っきりになっていた。
「なぁ、ショウ」
「何?」
趣味の話で盛り上がっていた二人だが、不意に正人が静かに翔次郎を呼ぶ。
何だろうかと改めて正人を見ると、なんだか真剣な目を向けられていて翔次郎は驚く。
そしてさらに頬に触れられたものだから、もっと驚いて体が固まった。
「ショウの肌って柔らかいな」
優しい手つきで頬を包み、宝物のように触れる手に意識が持っていかれる。
それから何をされたわけではない。だがずっと見つめる瞳は、何かを訴えるように外されなかった──。
* * *
「──あにきーっ!!」
「勘違いだ」
「まだなんも言ってねぇ!」
「じゃあ言ってみろ」
「絶対あいつ俺の事好きだって!」
「今日の宿題はどれだ?」
「聞けよ! プリント三枚目出た」
いそいそと宿題のプリンを出した翔次郎に、兄はため息を吐きながら受け取り翔次郎を座らせた。
「よし宿題をしながらお兄ちゃんの話を聞きなさい。まずなぜ自分を好きだと思ったんだ?」
「すっごい見つめてくるし顔にも触られた。これ絶対俺の事が好きだって」
「じゃあ昔話をしよう。中一の時に同じ話を俺はお前から聞いた」
「そんな思い出はない」
「あるよ、無かった事にするな。見つめてたのはお前の後ろの男子だったし、顔に触られたのだって虫を払ってくれただけだったろ」
「で、でもさぁ……」
「そんで勘違いして告白して泣いて帰ってきたよな」
「泣いてねぇもん」
「よーく思い出せ。本当にお前を見てたか? 触られた理由は他にあったんじゃないか?」
「……」
確かに、俺を見ていたんじゃなくて俺の真後ろにトイレの花子さんが居た可能性もあるし、頬を触れられたのだって俺のふわふわプリティほっぺが水饅頭に見えて触りたくなっただけかもしれない。
なるほど、こうして俺はいつも勘違いしてしまうんだな。と、翔次郎は一人で深くうなずく。
「おっけー理解した!」
「よし、それでこそ聞き分けだけはいい俺の弟だ」
「聞き分けだけはって何だよ」
兄の説得に納得した翔次郎は、今回はかろうじて勘違いを回避できたぞ! とすっきりした気持ちになった。
しかしどこかで残念な気持ちも抱えながら、その気持ちには気づかないまま兄に宿題を手伝ってもらったのだった。
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