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第6話 覚悟を見せてごらんよ
激しい熱の夜が過ぎ去った。
静まり返ったホテルの部屋で、過呼吸とパニックで気力を削り尽くされ、激しい行為の末についに体力の限界を迎えた筒香が、鳳の腕の中で小さな寝息を立てていた。
その目元にはまだ透明な涙の痕跡が色濃く残り、鳳のシャツをキュッと握りしめた細い指先は眠りに落ちてもなお離れようとはしなかった。
「……筒香………」
鳳はベッドの暗がりの中で、腕の中に収まる小さな肩を離さないようにぎゅっと抱きしめ直した。
(なんで……こんな……)
胸を締め付けるのは、実感したばかりの狂おしい程の愛おしさと、喉の奥に引っかかった恐ろしい違和感だった。
会社では天才的なコードを書いて一目置かれ、決して他者には心を開かず高い壁を作っていた孤高の男。
そんな彼が、なぜこれほどまでに壊れ、何かに怯えるようにボロボロと涙を流しすがりついてきたのか。
そして、脳裏に焼きついて離れない床に転がっていたノートパソコンの青い画面。
そこに躍っていた、自社システムを内部から徹底的に叩き潰す取り返しのつかない恐ろしいコードの数々。
(あの画面は……一体、何だったんだ……?)
普通なら、問い詰めるべきだった。
筒香が何者で、何をしようとしていたのか。なぜあそこまで危険な重罪レベルのデータを持ち歩き、今にも実行しようとしていたのか。
社内の人間として、プロジェクトの責任者として、警戒しなければならないはずだった。
けれど、自分の胸元で「一人にしないでくれ」と泣き叫び、助けを求めてきた筒香の体温を覚えてしまった今、鳳は彼を突き放すことが出来なかった。
(何があったのかは分からない……。でも、筒香をここまで追い詰めている『何か』が絶対にある…)
力尽き、ようやく眠ることのできた筒香の額にそっと唇を寄せ、優しく髪を撫で下ろす。
(……直ぐに調べないと。ここで筒香を追い詰めた正体を暴き出さなければ、きっともっと恐ろしい事態になる…)
そう確信した鳳は、暗闇の中で筒香を守るようによりいっそう深く抱きしめたあと、そっとベッドから抜け出し床に転がっていた筒香のパソコンへと向かった。
***
その様子を、監視カメラは静かに捉え続けていた。
異国の地で感情の糸がブッツリと切れ、ボロボロになりながら涙を零す筒香と、縋り付く彼を必死に受け止めようとする鳳。
ベッドの上で重なり合う二人の緊迫したやり取りの一部始終を、筒香のノートパソコンに密かに仕込まれた無機質なレンズが、冷たく捉え続けていた。
──東京、タワーマンションの最上階。
暗い部屋に整然と並ぶ複数のモニター画面の一つに、今まさにその映像が鮮明に映し出されていた。
画面の青白い光に照らされながら、白洲は愉快そうにワイングラスを傾け、口元にサディスティックな笑みを浮かべている。
「……あらら。俺の手によりをかけて育てた可愛い最高傑作ファントムが、すっかり絆されちゃって。あのお坊ちゃん、俺の正体でも暴いて正義の味方になる気かい?」
託したはずの大仕事は直前で未遂に終わり、あろうことか激しい感情を露わにして、鳳の腕の中で力尽き、今まさにベッドの上でぐったりと横たわっている筒香。
しかし、白洲にとってそれは、計算外のハプニングどころか、極上のスパイスが効いたエンターテインメントに過ぎなかった。
「いいよ、調べてみなよ。…さて、ここからどう動く? 無菌室のお坊ちゃん。そのちっぽけな正義感で、俺の可愛い玩具を本当に救えるかな?」
白洲は愉しげにそう呟くと、煙草に火をつけ、紫煙の向こうで冷たく目を細めた。
まるで上質なサスペンス映画のクライマックスを見守る観客のように、モニターの前にゆったりと腰を掛け直すのだった──。
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