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第6話

 光とアンジェロは人型の巨大なモニュメントに見下されながら、その陰に重なるように立つ。見上げる光にアンジェロはくすりと隠れて笑った。光は写真を撮るのも忘れてその存在感にアートのなんたるかを感じているのだった。 「おっきいね、でも反応に困るね」 「この巨人さん、光の今日の格好とそんなに変わらないよ」  (今日の僕、こんなにずーんと立ってる?)  二人はアートミュージアムに来ていた。荘厳な美術館は静かにしないといけない緊張で必要以上に体を強張らせてしまう光にとって、現代アートの群れと戯れるこの体験型ミュージアムはとても居心地が良いのであった。 「見て! おっきな蝶が飛んでるよ」 「ほんとだ、夜には光るみたいだね」 「えっそうなの? ここって夜もやってるんだ」 「また今度ライトアップされたちょうちょさんも観に来たいね」  枯れた落ち葉に埋め尽くされた敷地が、花畑へと変わりちょうちょが舞い踊る。冬の寒さは春の粧へと季節を変えた。温暖化の影響だろうか。  自然に発せられたアンジェロの「また今度」という言葉に光は一瞬だけ時が止まったように感じた。  (また今度があるのか)  隣で笑う彼には分からないだろうが、光はなんだか胸の真ん中辺りがあったかくなり両手でぎゅっと握り締めた。 「光、期間限定の展示もあるよ!」  こっちこっちと手招きするアンジェロに紫色のヒカリのように一直線に引き寄せられるのだった。  アートを楽しんだ後は途中カフェに寄り、なぜか蕎麦を食べて二人の間に江戸紫の花を咲かせた。そうこうしているうちに辺りはすっかり暗くなる。 「そろそろホテルに戻ろうか」 「……アンジェロ、戻る前に行きたい場所があるんだけど」 「うん? どこだい、どこでも付き合うよ」 「ほんと? じゃあ、ついてきて」  光は彼のホットチョコのようなスーツの袖を腕ごと掴む、アンジェロは椅子をガタッと鳴らし勢いのままついていく。二人はカフェを飛び出した。  同じペースで歩き続ける光と距離ができそうになると早足になるアンジェロは二人の間にある年の差を冷たい風とともに感じていた。  住宅街を抜け、細い路地を縫うように進む。どんどん坂道がきつくなってくるのもお構いなしにぐいぐいとアンジェロの腕を引いて目的地を目指すのである。  もうすでにどこに向かって歩いているのかアンジェロは気づいていた。そういえば日本に来てから2週間が経つが、まだ一度も行ってなかったなと思い及ぶ。行かなくても常に視界には入っていたそれに改めて登る日が来るとは、なんだか観光客になった気分である。 「じゃーん! 着いたよこれぞ東京のシンボルだよね」  オレンジ色に染まったそれの中に入り、展望台を目指す。ごつごつと武骨な風貌にも関わらず、綺麗と言われるその輝き。それとそっくりな形の絵が夜になると現れる。 「車のライトか」 「綺麗だね」  暗くも明るい都会の夜の中に浮かび上がるもう一つのシンボル。崖下に見える灯りの列は光にとって忘れられない記憶となる。二人並んで夜景を眺める。目線が右に流れるとアンジェロがいる。昼も夜も似合うこの男は他にどんな顔を隠し持っているのだろうか、光はそんなことを頭の奥で思っていた。 「アンジェロ知ってる? この光景を一緒に見たカップルは永遠の愛を誓うことができるんだって」 「何それ、愛を誓う許可を得られるの?」 「ははっそういうことになるね」 「愛を誓うのに許可なんていらないよ、俺なら全身から常に愛を放ち続けるけどね」 「情熱的〜」  軽口を言い合う二人の背後で蠢く陰が迫っていた。そんなことには気づかない彼らは向かい合い、手を取り合う。  しかし、幸せな時間はそう長くは続かなかった。アンジェロのポケットで震えるスマホが暖かな時間の終了を告げる。  画面に映し出された名前を見て、アンジェロは急いで電話に出るのだった。 「え? はい……明日ですか? そんな急に……はい……はい、分かりました。失礼します」  困惑した表情で電話を切るアンジェロ、ポケットにスマホを仕舞い光に向き直る。その動作は静かで、それでいて全身からため息を漏らす。そんな感じだった。  光は怪訝な顔でたずねた。 「どうかした?」  アンジェロは小さく、しかしはっきりと決定事項として目の前の光に告げた。その声は紫色に滲んでいた。 「ごめん、光。……俺、明日アメリカに帰らないといけない」

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