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第11話

 石畳の通りを歩くと、ルネサンス様式のアーチが美しい入口が現代建築のデザインと重なり合って独特のシックさを生み出している。  中に入り展示されたブランドの商品をスタイリストとともに見て回る。その後を緊張しながらもひとつも見逃さない勢いで勉強しながら付いていく景人。そんな彼らに迷いのない足取りで近づいてくる男が一人いた。  その姿は絹衣のようで、切れ長の決して笑わない目にすっと通った鼻筋。太刀のように切れ味鋭くて反った立ち姿が生めかしくぞっとする美しさだった。  男は景人がアシスタントを務めていたスタイリストに涼しげな笑顔で話しかけると、親しげに一言二言交わす。そして景人に向き直り、その氷のような瞳を寄越すのだった。 「やあ、初めまして樫木沢(かしきざわ)冬衣(とうい)です」 「あ、初めまして鶴(つる)景人(けいと)です」 「景人くんはいくつなの」 「あ、21です」 「そう、これから楽しくなる時期だね」  アシスタントの自分にまで話しかけてくれるなんて丁寧な人だなと景人は思った。その後も当たり障りない会話をいくつか交わしたとき、ふと聞かれた質問。 「将来はどんな仕事をしていきたいの?」 「えと、今はまだアシスタントの身なので日々勉強の毎日で将来のこととかは全然考えられてなくて」  その瞬間樫木沢の目がすっと細まった。冷たい表情の奥に続く暗雲の点を見た景人は背中を白い手で撫でられたような気分になった。 □□□  お手洗いに続く外廊下の隣には中庭があった。昼間は噴水を中心に庭木がよく手入れされている様子を観察できる。  今は日が落ちて店内から漏れ出る明かりを頼りに歩く足を止めて辺りを見つめる。  (空気が澄んでいるな)  景人は少し中庭に足を踏み入れてみようと体を前に傾けたそのとき 「ここの所有者は庭を荒らされることをひどく嫌う人だよ」  横からかけられた声に思わず体を固まらせた。  ふふっと小さく笑い声が聞こえたかと思うと景人に近づく影があった。 「えと、俺そんなつもりじゃ」 「無闇に入らないほうがいいよ」  別に荒らすつもりは毛頭なかったが、事を大きくしたら今後のキャリアにも影響しかねないと思いとりあえず謝る。 「すみません」 「別に責めてはいないよ、ただ忠告をしておこうと思って」  そう言って声の主は数歩前に出る。そこに現れたのは先ほどの男、星明かりに照らされて澄んだ空気のなかにまるで雪中花のようにすっと立っていた。 「忠告……?」 「君のキャリアのためにも、可愛い我が子のような存在を弄るようなことはしない方が身のためだよ」  そんなに自分は粗野な振る舞いをしていただろうか、自身の言動を顧みたが思い当たる節はなかった。 「はあ、ご忠告ありがとうございます?」  善意で言ってくれているのかもしれないので一応礼を言う景人に、男は再び小さく笑う。その姿が可憐であり同時に不気味でもあったので思わず目を逸らせず時間を忘れた。気づくとそれは目の前に差し出され景人を追い詰めていた。 「これが見える?」 「え……」  針が向けられシリンジには何やら液体が充填されている。 「世の中には薬にも毒にもなりうるものってあるよね」  中身は押し出され地面へと吸い込まれていく。 「君も中毒になってみる?」 「あんた……」  何なんだよ、薬物中毒者? 景人の顔は状況を飲み込めず、唇を震わせ額に雫をまとう。それは汗なのか夜霧なのか判別ができないほど男の狂気に惹かれていた。  何分経ったのだろう。気づくと男は消え、景人と彼の背中を襲う冷たさだけを残していた。

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