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第13話

「あの、ありがとうございました」 「ん? なにが?」 「助けていただいて……」 「ああ、僕はただ自分のデザインした服を愛してくれる人に挨拶しただけだよ」  優しい人……なのか? なんだか掴みどころのない相手に光はどう話を続けていいのか分からなかった。何かお礼をしたほうがいいのだろうか、いや勝手に関わってきたのはこの人だし。そう思ったので光は90度に腰を曲げてそそくさと消え去ろうとしたそのとき 「あれ? ジャンルカさん、なんでここに」  やっとのことでトイレから生還した景人が第一声に発したのは光を助けてくれた人物の名だった。 「ん? ああ、なんだ景人か」 「お久しぶりです。あの、光が何かやらかしましたか?」  なぜやらかした前提なんだ、と光は納得いかない顔で立ち話をし始める二人を交互に見やる。  長身の景人と、彼より20cmほど低い位置で話す人物はワインレッドでマーブル柄が印象的な縁メガネをかけていた。ベロア調の黒いスーツを着て、シクラメン柄のスカーフを首に巻かず垂れさせていた。  ファッション業界は広いようで狭いのかもしれない。NYに来てこんなに簡単に知り合いに会うなんて、景人を連れてきた甲斐があったなと改めて思う光であった。 「あの僕光って言います、改めてお礼を言わせてください。助けていただいてありがとうございました、よかったらお酒でも天ぷらでもごちそうします」 「それは大丈夫だよ、気にしないで本当に君を助けたわけじゃないから。僕の名前はジャンルカ、光はそんなにお礼をしたいの?」  ジャンルカさんは光に近づき、少し下から見上げるように試すようなことを投げかけた。 「したいですね、僕の気が済まないので。まぁ無理にとはいいませんが」  挑発的なその物言いに光は対抗するように胸を張って返した。 「それなら、おごらなくていいからその体一晩僕に貸してよ」  ジャンルカはほくそ笑む、瞳を囲うメガネの太い縁は顔にぺったりくっついていた。

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