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第14話
「体貸してほしいってこういうことだったのか」
光は現在仮留めされた服みたいな一枚布を体に被せられている。今デザインしているサマーコートの試作品らしい。サマーにコートは果たしているのだろうか、と光は思ったが酷暑が続くの現代の夏季において室内のガンゴン効いた冷房の下では必須アイテムらしい。なんだか皮肉なものである。
両腕を伸ばし、動くなと言われプルプル震えながらポーズをキープする光。そんな彼を見ながらなにやらスケッチをしているジャンルカの姿が数メートル離れた位置にあった。
「これいつまでやればいいの?」
さすがに飽きてきた光は、顔を90度捻ってジャンルカを見る。
「動くなと言っているだろう」
そんなこと言われても人と話すときは目を見て話せと言われてきた身としてはそちらに顔を向けたくなるんだよ、と内心不貞腐れ気味で光が話しかけた。
「なんで僕がこんなことしないといけないの、モデルさんならいっぱいいるでしょ」
「プロのモデルにこんなことさせられないよ、普段はマネキンで作ってる」
「えっ僕ってマネキンの代わり?」
とうとう動くことも喋ることも許されないマネキンにされてしまったのか、NYって怖い街。頭を抱えそうになる光。
「こらっ動くな」
「うっ」
何ポーズかのスケッチを行いようやくジャンルカが光と話してくれたのは夜の11時を回った頃だった。
「お疲れ様です、ジャンルカさん」
景人がジャンルカの座る机にコーヒーを置いて、彼を労った。そこに光が凝り固まった肩をぐるぐると回しながら近づいてくる。
「僕の分は?」
「はい、光はいちごミルク」
わざわざ夜に開いてるカフェを見つけて買ってきたであろうジャンルカのコーヒーとは違い、その辺のスーパーで適当に買ってきたことがうかがえるパックのいちごミルク。それを見て光は、さっきまで眉を寄せて口をとがらせていた表情が綻ぶ。だんだんと口元を緩ませて喜色を浮かばせていった。
「ありがとう!」
ふふふっと笑いながらストローでいちごミルクを吸い上げる。その頬は上がり、瞳は弧を描いていた。
いちごミルクひとつでこんなにも喜んでくれる光を可愛いと思う景人であったが、騙されやすそうで心配にもなるのだった。
今回の件だって、一晩過ごしただけの相手を追ってこんなとこまで来てしまった。それをほっとけなくて結局ついてきた自分も相当こいつのことが好きなのだなと自嘲する。早々に一パック飲み干す光に景人は慈しみの目を向けるのだった。
そんな彼らの様子にコーヒーを一口飲んでジャンルカがリンゴを真っ二つに切り分けるように鋭く問いかけた。
「君たちって付き合ってるの?」
「はっ?!」
思ってもみなかったジャンルカの問いかけに景人は驚きとともに顔を歪ませ心底ありえないと言ったポーズをとった。
「こいつと付き合うくらいならトカゲと付き合ったほうがマシです」
「確かに世話が焼けそうだね」
光はよくトカゲっぽいと言われる、ヘビっぽいって言われることもたまにあるけどとりあえず爬虫類顔なのかな? と本人は自負していた。
温度管理は必須、眠くて眠くて仕方ないときは脱皮という名の着替えにも時間がかかる。光が景人の家に泊まったときは服を着替えさせたり、ご飯を用意したりなんならお風呂まで入れてあげたこともあったなと、いままでの出来事をしみじみと思い出す景人。世話焼き体質の景人には人一倍信頼を寄せ、甘える光であった。
「で? その子が僕に会いたいって言ってた光って子なの?」
ジャンルカが景人に聞く頃、二人の横で机に突っ伏し光はすでに夢の中なのであった。
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