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第2話
「どうしよどうしよどうしよ……」
優我は楽屋の前をうろうろと左右に行ったり来たりしていた。
先日の取引から1ヶ月。まさかこんなに早く新メンバーが決まるなんて誰が予想したことであろうか。
優我たちのグループは数年前にSNSでちょっとしたバズを起こした。しかし、その後はヒット曲にも恵まれず所詮一発屋と言われるアイドルグループであった。
そんなグループの最年長である優我はなんとかこの状況を抜け出したいと、常日頃から考えていた。最年少である紬も大学を卒業したことだし、これからますます活動の幅を広げて邁進していこうと張り切っていたのである。ただその前に、紬がどうしても卒業旅行にいきたいと言うので事務所と相談し1週間の休みをもらったのがひと月前、行き先はオランダ、優我は保護者として同行した。ちなみに優我の旅費は事務所持ち、何事も経験だと社長がポケットマネーから出してくれたのである。
目の前には自分たちに用意された楽屋。扉には出演が急きょ決まって急ごしらえで用意されたことがうかがえるスタッフの手書き張り紙。一応数年前にバズって知名度だけは謎にある自分たち。中に入ると、真ん中に6人掛けのテーブルとイス。今の立ち位置を見事に表したような簡素なあつらえに優我は失笑をもらした。
「おはようリーダー!」
最初に声をかけてきたのは紬だった。歳の割に落ち着いているが、メンバーの中では一番無邪気さが残っている。
「おはよう」
優我は紬に挨拶をすると、用意された一席に座る。おはよう、おはようと次々と入室してくる一行の最後尾に一際背が高く、鼻背も高い男が一名いた。
「瑞帆おはよー」
「おはよう」
緩くパーマのかかったセンター分けの黒髪を揺らしながらペコリと頭を下げて皆に挨拶する男、名は西鷹瑞帆という。挨拶するときは頭を下げるよう教えたのは他でもない優我である。瑞帆のその姿に入学式に参列する親のような気持ちで成長を噛み締める優我であった。
そんな優我を見留めた瞬間、瑞帆は動きを加速させ一歩、二歩、三歩と距離を詰めた。
「優我、おはよう」
「お、おはよう」
「今日も美しいね」
ちゅっと音を立てて乾いた唇が優我の頬に触れた。それを目撃した他メンバーは一斉にひゅ〜っといった冷やかしの声を上げる。
「今日もお熱いねぇ」
「見せつけんなよぉ」
この楽屋では見慣れた光景であった。
「瑞帆!」
「え、なに優我?」
優我はたまらず瑞帆に詰め寄る。何事かとメンバーたちも動きを止めた。優我は我慢ならなかった、なぜなら
「リップクリームを塗れ!」
「え〜」
「えーじゃない、あれほど言ったのに」
全くもう、と優我のひとり言が楽屋に落ちる。なんだそんなことか〜と元の作業に戻る一同。これもまた見慣れた光景であった。
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