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13.永久の守り神

場所は変わり、ラーヴェン王城の一室__。 ラーヴェンの大改革が政策に組み込まれてはや21年が経過していたが、依然としてバザハムートの予言していたものは現れる兆候が見られなかった。 バザハムートの残したこの予言、<聖戦の幕開け>(プラチナ・アダム)には不明な点が多く、当初は何が現れるのかすらよくわかっていなかった。 だが現予言師のリュオンの力もあり、「絶大な力を有したそれ」とはシェヴァンノの護り神、ということが判明した。 <聖戦の幕開け>(プラチナ・アダム)に記された「母なる地」とは恐らくこのシェヴァンノことだ。そこに「永遠の和平」をもたらす存在……これは是が非でも現れて頂きたかった。 シェヴァンノ自体、そこまで争いの多い大陸ではないのだが、それでもやはり田舎の小国同士の小さな争いが完全に消えたわけではない。…それがいつ肥大化するか、わかったものではない。 この雄大なシェヴァンノをまとめ、統治する存在。やはり目指すべきは完全なる平和であると、ラーヴェンの現女王、ノエル・アナシリナ・ベン・ラーヴェンはそう考えていた。 「これより定例議会を始める。半月後には帝国議会が我がラーヴェンで開かれる。みな、心して臨むように」 第一会議室にノエルの凛々しい声が響く。 定例、と普段行うようにスムーズに話し合いが進む中で、ラーヴェンの大改革の話にさしかかったところで宰相が重く口を開いた。 「女王陛下、よろしいでしょうか」 「…何だ」 長くノエルと国統治を共にしてきた宰相、リコーディオンが席から立ち上がり、慎重に言葉を選びながら話し始める。 「…このリコーディオン、長く陛下のもとにつかせていただきはや16年。だからこそ、この私が失礼を承知で申し上げます。 亡き陛下のお母上、レナハ様がこの大改革を始められ、陛下がその意志を受け継がれ、推し進められてきたこの政策、はっきり申し上げてもうこれ以上は無駄かと。……16年、16年ですぞ陛下。16年間もの間、様々な手を尽くし、進めてまいりました。ですが陛下の仰るものが……いっこうに、気配すら見せぬではありませぬか。……このリコーディオン、」 「もうよい」 意を決したかのように自らの名を呼び上げた所でノエルがリコーディオンを制す。 肘置きにもたれかかり、ふぅ、とため息を1つついてゆっくりと口を開いた。 「…本当は上に立つ者がこのようなことを言ってはいけないんだろうがな。実はな、予も同じことを考えていたのだ。きっかけを作る、ここ数年で最有力と言われた地への調査遠征が失敗に終わってからだな。我が母の言っていたことに…、疑念を…持ち始めたのだ」 目を見開き、驚きの表情を浮かべるリコーディオン。 それもそのはず。ノエルは幼い頃より母のレナハをもはや神聖視していると言っても過言ではないほどに尊敬していた。レナハが亡くなった時、皆の前では悲しみを見せず、気丈に振る舞っていた。だがその実、1人、自室で泣き明かしていたのをリコーディオンは知っている。 そんなノエルから出た母への疑念という言葉。 「ノ、ノエル様……」 「だが」 肘置きから体を離し、しゃんと座りなおるノエルが再び口を開く。 「リュオンが、……リュオンが『その時』は近いと言っている。やつの偉大なる母の血を受け継ぐ予言は絶対だ。……もう少し、もう少し待ってはもらえぬか。恐らくお前たちには重い負担が掛かると思う。ごくわずかではあるが、政策反対派の国民からも厳しい意見が出ると思う。……やってくれるか」 途中、座していた席から立ち上がりながらの会議室への皆へ問いかけるノエル。 同じく宰相であるリコーディオンが立ち上がり、ノエルの方へ向き直ると深々と頭を下げる。 「もちろんでございます。このリコーディオン、陛下がそう仰るのであればどこまでもついて行きますぞ」 それに続くように、他の会議参加者たちが立ち上がり、頭を下げる。 この瞬間、ノエルは確信した。例え、ぎりぎりまで「それ」の存在を探し続けて、もし現れなくとも、あの大予言師の予言が外れてしまったとしても、この宰相たちがいれば大丈夫だと。 平和な世の中を作るのに、これ以上うってつけの者たちはいない、と。 「英志みなぎる我が同胞よ、必ずや亡き母と大予言師の遺言を成し遂げようぞ……!」

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